第18話:なんかぐにゃってるぅ

 暫く馬車に揺られ漸く目的のカデナ村に辿り着く。

 村の外れに建つ冒険者統括組織ギルドにて迷宮ダンジョン入場の手続きをすると、今日は遅いからとそのまま統括組織ギルドの二階に併用されている宿に泊まる事にした。

 冒険者統括組織ギルドとは国中の冒険者を取りまとめる為に存在する組織で、冒険者統括組織ギルドに登録しなければそもそも冒険者とは認められない。

 登録する事により様々な仕事の斡旋や迷宮の入場の許可を得る事が出来るようになったり、また小さな村など宿のない場所でも冒険者統括組織ギルドに登録しておけば統括組織ギルドに併設してある宿に無料で泊まる事が出来るなどの特典もある。

 なお冒険者統括組織ギルドに登録せずに冒険者の真似事をすると、規模によってはお尋ね者になる事もあり得るので原則的に登録する事が推奨されている。

 タクトは王が直々に認めた勇者と言う肩書により冒険者統括組織ギルドもそれに協力すると言う形で冒険者登録されている。

 等級は今の所無表記である。

 これはどうしたらいいか判らない冒険者統括組織ギルドが出した苦肉の案である。

 無論エリナもA級と言うものが示す通り冒険者登録済みである。

 カウンターでダルそうに座っている初老の男性から部屋の鍵を預かると、数枚の依頼書が張り出されたコルクボードの奥に設置された階段を上がる。

 横目でちらりと見てみれば鉱石や薬草の採取や近隣に出現したのであろう魔物の討伐などの依頼があったように思える。

 二階に上がり一番手前の部屋に入って鍵をかける。

 他の部屋は全て空き部屋の様だが、当然とばかりにエリナも同じ部屋で泊まる。

 何時ものこの流れにも流石に慣れたタクトは、明日の為にと早めに睡眠をとる事にした。

 そして朝日が昇り始めた頃、エリナに起こされて迷宮ダンジョンまで移動する。

 ミニエルに至っては未だ眠いのだろう、姿を消しタクトの中にある核に収まって睡眠を貪っていた。

 眠い目をこすらせつつ歩く事一刻一時間程だろうか?

 目の前の光景に眠気もぶっ飛んだタクトが声を上げる。


「むっちゃおっきい階段!!しかもなんかぐにゃってるぅ」


 何もない草原に突如現れる階段。

 しかも入り口は石材で舗装されており、段自体も石材と言う明らかに人の手が入ってそうな代物。

 更に言うのならそれが地下深くに続いていて底が見えない。

 それだけならまだ前世の地下鉄みたいなものだと納得できただろう。

 しかし大きさが半端じゃないのである。

 平均的な身長の大人が十数人程横に広がって手を繋いでも余裕で通れる幅である。

 しかも所々陽炎が立ち上っているかのように歪んで見える。


「そういうモノですので、お気になさらず」


 淡々とそう告げるエリナは早速野営の準備を始める。

 周りをぐるりと一周したタクトが中に入らないのかと尋ねると、行ってらっしゃいませと答えられる。

 予想外の言葉にタクトは変な声を上げた。


ご主人タクト様お一人で十一番迷宮ダンジョンを踏破して貰います。踏破許可は既に出てますのでご安心を」


 タクトにとって無茶苦茶にしか思えない言葉を耳にして思わず聞き返してしまうが、やはり同じ言葉がそのまま返ってくる。

 迷宮ダンジョンを踏破する――即ち迷宮の最奥にある原因を取り除くと、迷宮ダンジョンはその機能を停止する。

 迷宮ダンジョン自体晶石を集めたり貴重な品々を手に入れる事ができる資源とも解釈されているので、国の管理とされていて入場ですら冒険者統括組織ギルドで厳しく管理されている。

 この十一番迷宮ダンジョンも例になく一見誰もおらず入り放題かと思われるが、許可証を持たないものを弾く結界が用意されており階段を降りようとしてもその上に乗っかってしまう仕組みとなっている。

 仮に許可のない者が勝手に踏破してしまった場合、国の資源を不当に奪ったとして少なくとも罰則金で大金貨以上、支払えなければ死罪もあり得る。


「一人って………マジ?武器も防具も無しで?」


 未だ信じられないと言った様子でエリナに聞くが、やはりエリナは最初からそのつもりだったようで一貫して意見を変える事はない。


「当然です、私の元へ戻れるようになっていますので。実践にて最低限の実力を身に付けて貰います」


 言うや否やこれ以上言葉は要らないとばかりにタクトを階段へと向かわせる。

 半ば背中を押されるように一段降りてはまた一段とゆっくり階段を下りて…

 十段目辺りに足をかけた辺りだろうか?

 突然タクトの視界が捻じ曲がり暗転する。

 しかしそれは一瞬の出来事であり、変化に気が付いた頃には一面茶色の大地に足を踏み入れていた。


「フゴフゴ…フゴッ!?………ブヒ!!!!」


 何が起きたのかと確認する為にタクトは後ろを振り向く。

 そこには当然の様にある筈の階段は無く代わりに宙に握り拳程度の大きさの硝子玉のようなものが浮かんでいた。

 そしてその硝子玉のようなものの向こう側に………

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