第13話:天使様のお導きであれば
謁見の間に入ると人が変わった様にキリッとした顔つきになる。
タクトの社会人モードと呼べばいいのだろうか、前世の記憶を基に確りとした立ち振る舞いを見せる。
相変わらずの子供らしさの欠片も無い行動に、見ている側は若干引き気味ではあるが…
「う、うむ…長らく待たせて済まなかったな。」
盛大に頷くと少し気まずい表情を浮かべる。
「テストは無論合格なのだが、一体何処でその様な知識を身に着けたのだ?」
王のみならずこの場に居る誰もが抱えた疑問に対し、タクトは事前に考えていた答えを口から出す。
「
困った時の天使頼みとはこの事だろうか、流石の王もこの
正直タクト本人にはそのような信仰心は余り無いと自覚しているが、使えるものは使うべきと判断した。
ミニエル的にもこれは問題ないようで、実際に問題を解いたミニエル視点で見ても
「
困ったような顔をした王は、顔を伏せ仕方なしに認めざる得ない状況を作られてしまったと考えているようで暫し悩んだ。
暫く小さく唸る様な声を上げた後に顔を上げると、決心したかの様に少し垂れた目元を輝かせると、タクトを正面から見据える。
「判った、そなたを勇者と認めよう。だが勇者と言えどその様な幼き者を一人にすると言うのは気が引ける故に供をつけよう。何、保護者のようなものだ」
保護者と聞いてタクトが困ったような悩むような複雑な気持ちを抱く。
この見た目では仕方がないと理解はしていても気持ちの整理は中々上手くできないものである。
王は近くにあるハンドベルのような形をしたものを手に取ると、左右に振り音を鳴らす。
それは呼び鈴だったようで、タクトも客間に似たようなのが置いてあったなとふと思い出す。
音が鳴りやまないうちに謁見の間の扉が静かに開かれると、ここまで案内してくれたメイドが姿を現す。
「彼女を共とする。何心配はいらん、去年の武術大会の勝者である。この国の個人戦力として最高の力を持っている事を保証しよう」
紹介されたメイドは青い髪を少しばかり揺らしながら丁寧にお辞儀をする。
「エリナと申します。これから宜しくお願い致します」
青い髪のメイド――エリナは頭を上げるとタクトの横で王へと膝をつく。
ミニエルが隣でお姉さんが出来ましたね?などと言って笑っているのを煩わしく思いながらもタクトは取り敢えず平静を装った。
だが、内心は予想外の展開に半ば戸惑っていると言うのが現状だ。
「では勇者タクトよ、困った事があればいつでも相談に乗る故に、何でも話すがよいぞ」
とてもいい笑顔でタクトに笑いかける王に対し、今一番困ってますとは言えないタクトであった。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
王との謁見から一月程が過ぎただろうか。
タクトはまず城から出ると宿の確保などをした。
これまでは孤児院であったり城であったりで寝泊まりしていたが、これからはそう言う訳にも行かず宿を取る必要があった。
城から出て知った事だが、事前に王からの選別として金貨十枚と勇者であることを証明する証書をエリナが預かっていた様で、当分の間の路銀には困る事が無い様だ。
それを知ったタクトは国で一番大きな図書館へと案内してもらう事にし、そこから一番近い宿に金貨一枚預け泊まれるだけの予約を入れる。
そうして図書館に入り浸る事にしたのだ。
生活サイクルとしては、昼は図書館で夜は魔法の訓練と言った感じだ。
当初宿ではこれから同行するエリナに対し、ミニエルと
存在を知らせる事にしたまでは良かったが、実際にミニエルの姿を見せたエリナがその場で平伏し祈りだし全く動こうとしなくなったなどと言う事もあった。
他の世界出身のタクトから見たら只の小さな人型の存在もこの世界出身のエリナから見たら神聖な存在なのだ。
それからと言うものの、片時もタクトの傍を離れず三歩後ろを維持し付いてくる始末である。
エリナの言い分には
食事も訓練も寝る時もお風呂やトイレですらついて来ようとするエリナに対し、ミニエルを見せた事を少し後悔するタクトではあった。
何とも過保護な姉が出来たもんだなと苦笑するが、どこか嬉しい気持ちも有ったりするので余り責められない気持ちも強かったりする。
そんなタクトは図書館でこの国の一般常識を勉強している最中である。
ミニエルも少しは知っているのだろうが、知識としての側面も強ければ実際には
実際に体験するのとは色々と違いがあるだろうとの事で、これから色んな人と接する中で少しでも噛み合わせのズレを無くしたいと言うのが一つあった。
無論勉強した事をエリナとすり合わせる事で答え合わせとし、変な習慣などを身につけないようにする。
口数の少ないエリナではあるが、指導より躾けと言う側面もあり割と厳しい。
タクトは心の中でスパルタ教師が二人に増えたなどと失礼な事を考えたりする程の厳しさであった。
序に図書館に籠る理由としてはタクトの趣味である物語を読む事に対する意欲も大きい。
なにせ、普通に生きていれば決して読む事のなかった異世界の物語に直に触れる事ができるのだ。
それはもう齧りつくように読むのである。
隣ではミニエルが補足として解説を入れ、エリナが新たな本を取ってくると言った光景が毎日のように見られるようになった。
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