第11話:じゃあ世界災害許可証の発行を
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真っ暗な空間の中で無機質なイス二脚とテーブル一卓。
その他に目立つものと言えば昭和初期を思わせるブラウン管のテレビ。
テーブルの上にはティーカップが置かれ、紅色の紅茶が優しく湯気を立ち上げている。
片方の椅子に座るは金色の髪を背中まで伸ばした少女。
紅茶よりも赤い光を携えた瞳はブラウン管を捉えている。
天使ファヌエルである。
ブラウン管にはいくつかの配線が繋げられており、繋がっている操作盤には透き通るような白色をした両手が乗っていた。
「うーん、難しいですね。良く判りません…」
ブラウン管にはタクトを転生させた時に使った白い箱が映っており、どうやら箱の解析作業を行っているようで様々な機能などの一覧が表示されている。
ファヌエルとしては白い箱のような最新技術が詰まった
「これは相談した方が良いかも知れませんね」
壁は高そうだと判った所でこの箱の購入先である
善は急げとばかりに
「ちょっとちょっとちょっとちょっと
とても聞き覚えのある声を聴いて、タクトさんの世界には噂をすれば影って言葉がありましたっけ?などと思いながらダイヤルを回す手を止めると、真っ黒な空間を一部開く。
そこから元気よく飛び出して来たのは先ほど思い出していた存在で、桃色の軽くくねった短い髪に青い瞳がチャームポイントと自称する
「ちょっと、パラシエル。そんなに慌ててどうしたのです?」
天使パラシエル。
宝の天使と言われ数々の
その関係から
但しファヌエルから見たら
「わー、
相変わらずのマイペースな行動も慣れたものでそれらの言葉をあっさり聞き流すと、どうしたのかと再度尋ねる。
その際に紅茶をさり気なく用意するのもいつもの流れである。
「はぁ、美味しい。
差し出された紅茶を一口頂くといつもの味に安堵を覚えるが、ブラウン管に映った白い箱を見て現実を思い出したかのように騒ぎ出す。
ファヌエルとしてもこの箱の事を知りたかったので、渡りに船なのではあるが何だか腑に落ちない気分になるのは何故なのだろうか。
「この前
両手を頭の高さに持って行って掌を上に上げひらひらと動かす仕草を見せる。
目が三白眼かのような形になっているがファヌエルは視線を逸らし見ないふりをする。
図星を付かれてちょっと恥ずかしかったのかも知れない。
「えとね?
話が進むにつれて凄い勢いでファヌエルの顔が青ざめる。
「ま、まだ使ってないよね?ちゃんとした
額に大粒の汗を流し目が虚空に泳ぐ姿を見てパラキエルは察する。
懐から取り出した新しい白い箱は
「な、ななななな…何ですか!無茶苦茶に大変な事ですよ!もうとっくに使っちゃってますよ!大体何十年前の話ですか、不良品ならちゃんともっと早く教えてくださいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
真っ暗な空間にファヌエルの悲鳴にも似た叫び声が響き渡った。
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暫くの間、ああでもないこうでもないとバタバタとあっちこっちに動いて慌てているファヌエルを必死で落ち着かせたパラシエルは、何とか話を前に進めようと思考を巡らせる。
「すっごく謎だけど、あのボタンを押しても
ファヌエルはガックリと項垂れてはいるもののちゃんと椅子に座る事には成功した模様。
今だ表情は希望の天使ならぬ絶望の天使と言った方が納得できるような顔色ではあるが。
「まずさ、その
話の切っ掛けにでもとタクトの現状を聞いたパラキエルは後悔する事になる。
事故とは言え死んで転生させられたと思ったら更に死んでいたまでは自分の作った箱の所為だと言うのは予想できた。
だがその後幼児になっているなんて想像も出来まい。
しかもその原因がこの画面に映る箱にあると言うのだから頭を抱えるのも無理はない。
「あーー!もう本当ごめんなさい。私も出来るだけ手伝うから頑張ろう?できる事なら何でもするから、本当………ごめんね」
普段お調子者でマイペースなパラシエルだが、起こした問題の大きさに流石に反省し声も小さくなる。
最後の方はもう消え入りそうになり虫の音のような声量になっている。
「………あら?今、何でもするって言いましたよね?」
項垂れたままのファヌエルの瞳が怪しく光った気がした。
何でもと言うワードを使った事を迂闊に思いながらもパラシエルは首を上下に動かす。
「じゃあ
この時を待っていたとばかりに要求を突きつけていく。
思わず項垂れていたのは演技だったのかと頭に過るパラシエルではあるが、
なお世界災害許可証とは天使が自身の管理する世界へ直接干渉する事を許可する証明書であり、この許可証が無い限りは如何に自身の管理する世界と言えど過度な干渉は禁じられている。
これをファヌエルは既に過去に何度か発行しているが、基本一度発行されたものには期限があるので、切れている場合は必要であれば再度発行手続きが必要になる。
しかし、この許可証を用いても世界が滅ぶような事があった場合、その責任は発行された
無論失敗すれば、軽い処罰でも一万年ほどの封印処置などと重い罰を受けねばならなくなる。
言ってしまえば最後の手段とも言えるモノの一つである。
「うぅぅぅ~気が重いけど世界災害許可証は
言うや否や真っ黒な空間を飛び出して行く。
その速度は光の速さを超えるかのような、そんな速さで。
残されたファヌエルはサリエルが死を司る天使である事を思い出し少しの不安を感じる。
「ちゃんと生きて帰ってきて下さいね?」
なんて独り言を零すのであった。
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