第10話:世界創生から語れますよ

 ちょっとした雑談などをしている間に半刻三十分はあっという間に過ぎてしまい、扉を叩く音が聞こえた。

 返事をすると扉が開き、そこには先ほどまでの男性とは違う人が姿を現す。

 所謂メイド服などと呼ばれる衣装を身に纏い、短い青髪が清涼感を感じさせる女性だ。

 その姿を見たミニエルが凄い人が来ましたねと伝えて来るが、タクトにはその凄さは判らず、どちらかと言うとその容姿に見とれそうになる。


「テストはこちら、国語・理科・歴史・数学の四教科となります」


 そう言って問題用紙と一緒に解答用紙を四教科分全て手渡すと、四刻四時間後にまた来ますとだけ伝え部屋を出る。

 どうやら一教科毎に区切るのではなく、一度に全てやってしまう様だ。

 それにしても部屋から出てしまうなんて、カンニングなど気にしないのだろうかと一瞬考えたが、そもそもこの部屋にも持ち物にもそのような事が出来る代物は皆無であったことを思い出す。


「まずは国語からやってみようか」


 タクトは取り敢えず一番上にあった国語の問題が目に付いたので取り敢えず捲ってみる事にした。


((この物語を通じて作者はどのような事を伝えたいのかを記述せよ、ですか))


 誰も居ないにもかかわらず相互伝心テレパシーを使っている辺り、ミニエルとしてもテストを意識しているのだろうか。

 書いてある物語は所謂童話と言ったもので、タクトは勿論読んだことが無い。

 孤児院でそのような話を聞いた事が無いか思い出そうとするが該当する話は出てこずに、寧ろ天使ファヌエル様はこんなに素晴らしいと言った内容ばかりだったなと思い出して苦笑いしてしまう。


((ああ、この童話は簡単に言うと、通りがかりの旅人が虐められてた子供を助けるとお金持ちの家の子だったみたいで、親がお礼にと大きな箱と小さな箱を用意するんですよ。そして旅人に撰んでもらおうとするけれど、どちらも要らないと断って旅を続けるってお話です))


 語りながらミニエルは器用に筆記用具羽ペンを魔力で動かすと、さらさらと回答用紙に記入しだす。

 タクトが良いのか?と問うも私たちはですよと答え記入する手を止めない。


((つまりタクトさんの世界の言葉で言うのなら情けは人の為ならずと言いますか、善行に見返りを求めないと言いますかそんなお話ですよ))


 今度本を読む機会があればじっくり読んでみるのも良いなと思っている所で、役目を終えた筆記用具羽ペンが指定の位置に戻り回答が出来上がる。


「国語はミニエルに任せたからな、次は数学で行ってみようか」


 国語の問題用紙の下にあった数学を手に取ると、早速捲ってみる。


「何々、次の問いに答えよ…って四則演算と三角形と円の面積の求め方?何だこれ?」


 次のページには一次関数としてX+3=4-1などと書かれた問題が数個あるのみであった。


((うあー、これ市町村役人試験レベルの問題じゃないですか。本気で不合格にするつもりで来てますね))


 とはミニエルの話。

 どうやら一般市民が学ぶ範囲は基本的に足し算引き算であり、それ以降は成績優秀者のみが集められ掛け算割り算を教えられるとの事。

 その中でも特に優秀な成績を収めた一握りのみが土地の広さをを求めたりなどに使う面積の求め方などを学ぶ。

 そうして役人となりやがては国の中枢で働くものが選抜される仕組みとなっているとミニエルは語る。

 だが、タクトとしては小学生から中学生レベルの問題であり今更悩む要素が無い。

 特に躓く要素も無いので簡単に答えを書いてしまう事にする。

 途中ミニエルが感心しているようなキラキラとした尊敬の眼差しを投げかけていたが、タクトにとってはそんなに頭が悪いと思われていたのかとしか考えられず、居心地は良くなかった。


((次は歴史行きましょう、歴史!))


 ミニエルが歴史アピールするので仕方なく歴史の問題用紙を探しページを捲る。


「歴史は、年表問題だな…うん、全く判らん」


 異世界からやってきたタクトにとってこの国の歴史に触れた事など、殆ど無いと言っていいだろう。

 それこそ記憶としてもこの体の年齢と同じ年数しかないのだから判らないのも当然である。

 流石のタクトもこれには困り顔でどうしようか考えるが…


((いや、私これでも本体ファヌエルの知識分けて貰ってますからね?大まかになら世界創生から語れますよ))


 とこんな感じでミニエルが年表にある空欄を埋めていく。

 しかも途中途中補足として細かな時空列で起きた事件なども追加する熱の入れようであり、暫くすると歴史的資料でもなかなかお目にかかれない知識量の回答用紙が出来上がる。


((もっと書く事ありますけど、空欄が少なすぎです。仕方ないのでこの位にしておきましょう))


 明らかにやり過ぎな回答用紙を無言で後ろに回し最後の問題用紙を取り出す。


「最後は理科か。何々…炎の魔石と氷の魔石を同時に使用した場合、どうなるのか答えよ?」


 取り敢えず魔石って何だ?と問いかけると、魔力の籠った石ですよと答えが返ってくる。


((簡単に言うと、魔力を貯め易い石ってのがありまして、それに炎の魔法を込めたとすると、誰でもその石で火をつけられると言ったものです。氷の魔石なら周辺温度を下げたり、直接物を冷やしたりなど出来ますし一般的に出回っている代物なんですよ))


 魔力の貯め易い石の事を魔貯石まちょくせきと呼び、それに魔力を込めたものを魔石と呼ぶ。

 魔石は溜め込んだ魔力を使い切ったら魔貯石まちょくせきとなり、また魔力を注ぐ事で魔石になる。

 しかもこの魔貯石まちょくせき自体は割と採掘できるものであり、安価で購入できるため人々の生活の一部として使われているとの事だ。

 町では魔貯石まちょくせきに魔力を注ぐ専門の店も有ったりするほどである。

 そんな流れでミニエル先生の魔石講座が始まりそうな勢いだったので、今はテスト中だからと断り問題に向き合う。

 勿論試した事もないタクトには全く判らない。

 と言うかこの問題が理科の問題なのかどうかも疑わしいと感じる程である。


((もう、タクトさんったら私が居ないとダメなんだから))


 と言いながら再び筆記用語羽ペンを動かし回答欄を埋めていく。

 回答欄を見るに、どうやら二つの魔石を同時に使用した場合は音がするだけで他には何も起こらない様だ。

 他にも水の中で呼吸する為にはどのような魔石を使うべきか?などと言った問題もあったが、ミニエルがさらさらと答えてしまう。

 流石は天使ファヌエルの分身体だと感心するが、同時に殆どの教科をミニエルが解いてしまった事に対する情けなさも感じる事となった。

 結果として回答欄が全て埋まるのに二刻二時間も必要ないハイスピード回答となったのである。

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