第9話:はい、お任せください!
「学力テストを行う」
聞き間違いかと思ったタクトとミニエルの二人は、思わず真顔になってしまう。
とくにミニエルは周りに見えていない事もあって油断しているのだろうか、一際大げさなリアクションを取っている。
「はははは、その歳でもテストと聞けばそのような顔をするのだな。わしの
再び
思い出していたのだ、前世で散々味わう事となったこの場の空気を。
それは正しく就職活動における面接そのものであり、タクトの見た目も相まってか、正直に言うと俗に言う圧迫面接より大分穏やかであると判断できる。
学力テストなどと言うものも面接における筆記試験であると考えれば違和感も吹き飛ぶと言うもの。
「ゴホン…最初は
タクトはミニエルに対し
その様なやり取りの中で、控室に通されたのは事前に王への報告などもあったのだろうと察する。
「信じられん部分もあるが、騎士たちの報告を疑う必要もないでな。力は十分にあると判断した故の事、無論受けられるな?」
最初こそ真顔になってしまったタクトであるが、キリッと目元を輝かせ自信たっぷりの笑顔を見せる。
就職氷河期を足掻いてきた面接技術の一つ、笑顔である。
前世でも相手へ与える印象は暗い顔より明るい顔の方が好感触であると確り学んでいたタクトは、面接の予定が入ると鏡の前で笑顔の練習をしていた程の熱の入れようで、初めの頃は表情筋が痛くなる程繰り返していた。
「はい、お任せください!」
そしてこのハキハキとした気持ちの良い返事である。
例え自信が無くとも、まるで満ち溢れているかのように返事をする事もまた、タクトは面接技術の一つとして学んでいた。
「ほう、良い返事をする。ならば早速行うとしよう、下がって良いぞ」
退出の許可が出ると、タクトは立ち上がり
これも勿論面接を受ける一環で覚えた技術になる。
主に接客業などで必要になる綺麗な一礼と言うものだ。
姿が見えなくなると側近たちからは”最初こそ噛んだが確りした良い子”だとか、”あの孤児院ではこんな小さな子にまで礼儀作法を徹底しているのか?”などと言った言葉でざわめき立つ。
玉座に座る王ですら、”本当に五歳児なのか?”と小さく言葉を漏らすのだった。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
扉の外で待機していたのだろうか、案内人が早速やってきて一室へと案内される。
そこにはテーブルと椅子がワンセット置いてあり、テーブルの上には
ここまで案内してくれた男性に椅子に座る様にと促されると、言われるがままタクトは椅子に座る。
身体に対し少しばかり椅子が高いが、仕方ないのだろう。
それ以外はクッションの効いた良き椅子であると思える。
流石城で使うだけあって良い物揃ってるんだなと変な所で感心するタクトであった。
その横ではミニエルが今回のテストの意図を探っていた様で、恐らくこう言う事なんだろうなと言う推論を考えている。
「これより、
男性はそう言うと部屋を出てしまい、控室の時と同様に二人きりとなった。
刻とは時間の単位の事で一刻が一時間であり、その半分だから半刻。
一日は二十四刻なのは前世と変わらず、一年は三百六十五日である事も同じ。
タクトにとっても同じ認識で時間を語れるのはありがたい事で、時間における勘違いなどは余り起きないだろうなどと再確認する。
なお分単位で表す時は同じく分と言う辺りもタクトにとって判りやすいものだった。
「半刻だから三十分か」
緊張したなぁと言った感じで、誰の目も無くなったのを確認して姿勢を崩すタクトに対し、ミニエルはテーブルの上に着地して顔を覗き込んでくる。
「まずはお疲れ様ですね、でもこのテストは絶対合格しないと不味い事になるかもしれませんよ?」
そう聞いて控室での話――正確には”無礼を働けば死罪も有ります”と言う部分を思い出し思わず身構えてしまうが、ミニエルにはお見通しの様で。
「ああ、死罪って訳じゃないですからね?ただ…」
少しばかり言い淀むミニエルに対し、じゃあ何があるのかと先を急かすとゆっくり語りだす。
「いや、これまだ予想なんだけど…多分ですね、このテストで不合格だった場合は学力不十分とみなされて学校に通わされることになるのではと。そしたら卒業するまで何もかもお預けになるのかなって…ね?」
頭の中で状況を考えてみると、成る程そう言うのもあるのかと思いつく。
異世界の学校に興味が無い訳ではないタクトではあるが、まずは今の状況を乗り切るべきだと考える。
「これまでの状況を整理してみようか。まず孤児院に居た五歳児がいきなり勇者とか言われる所からな」
ミニエルはちょっと気まずい顔をするが直ぐに持ち直す。
「はいはい、それから王都から急ぎ迎えの騎士がやってきますね。恐らくこの時点でのテスト内容は先ほど言われてた
一つ頷いてタクトは
「つまり、子供では絶対勝てない相手を用意した訳だ、勇者ならこれくらい勝てると楽観視してたか、負けても良い様に騎士を派遣して安全面を考慮したのかはちょっと悩み所だが…」
顎に手を当てて考える仕草をすると、ミニエルの方から恐らく後者でしょうねと言葉が届く。
「ほら、先ほどの謁見でも割と子ども扱いされていたでしょう?
確かにそうかもしれないなと頷くタクトを見たミニエルは満足そうな顔で続きを語る。
「それでさっきの予想なんですけど、力のテストで合格するなら頭のテストで不合格にしてしまえば良いって考えたんじゃないかなって」
此処までの話は納得できるものであるが、ふとタクトには一つの疑問が浮かび上がりそれをそのまま口にする。
「でも勇者を不合格にしたとして、学校に通わせて何がしたいんだ?」
タクトにとっての勇者とは
そんな勇者を戦わせず学校に通わせるメリットが思い浮かばないのだ。
だが、ミニエルはそんなタクトの内心を察してか、ため息一つつくとジド目でタクトを見つめる。
「いやぁタクトさん、あなた五歳児に戦場に行けって言う大人が居たとしてどう思いますか?」
ミニエルの問いに対し、ぐうの音も出ないタクトであった。
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