第8話:勇者たきゅ…タクトでしゅ…
王都へ着くとそのまま城へと案内され、謁見の間の隣にある控室へと通される。
任務を無事終えた騎士たちとはここで別れる事になり、タクトに対し思い思いの一言をかけ去って行った。
控室には当初使用人と思われる男性が一人居たが、簡単な挨拶を交わし飲み物を用意すると立ち去ってしまう。
つまりここに居るのはタクトとミニエルの二人だけである。
少しの寂しさを感じながらもタクトは飲み物へと手を伸ばすと、カップを覗き込む。
真っ白な液体が注ぎ込まれており、見た目にも判る立ち上る湯気と共に手に心地よい熱を感じた。
その感覚を楽しんだ後に一口含むと仄かに甘い味わいが広がった。
「ホットミルクだ、これ」
城で出される飲み物であった為か、無駄に期待値が高かったのだろうか、タクトは何時もの飲み慣れた味に少し拍子抜けしたようだ。
ここぞとばかりにワインの一つでも出ると思いました?とからかうミニエルの言葉に、こんな姿じゃなぁと答えるとふかふかのソファを堪能する。
「そう言えばタクトさん、この世界の常識ってどれ位判ってます?」
ミニエルが
二人きりの時は
これはミニエルが出来るだけそうしたいと言う希望を伝え、タクトが了承した為だ。
体が沈み込む心地よさを全身で感じていた所での質問に疑問符を浮かべつつ曖昧に返事をする。
「自信あるなら良いですけど、恐らく次はこの国の王へ挨拶する事になりますよ?無礼を働けば死罪も有りますから気を付けて」
やれやれだと言わんばかりのジド目を向けながらの言葉にタクトは意識を切り替え、そんなまさかとしどろもどろな対応をするが、ミニエルは当然でしょうと告げる。
「タクトさんの世界の国のトップ、ええと総理大臣に意図せず失礼な事したとして、一回なら
段々と顔が青くなりつつあるタクトに対し追い打ちとばかりに続きを語る。
ミニエルの顔が何処か楽しそうなのは気のせいだろうか。
「そもそも国を守護する魔物除けの結界を維持しているのは国王ですからね?ほら、孤児院でそんな事学びませんでした?」
言われてみれば…と顎に手を伸ばし考え込むと、神父がそんな話をしていたような事を思い出す。
「えと、晶石を加工して出力を上げたのちに王族だけが使える専用の印を使って王都や町や村の結界を展開し維持するんだったっけ?」
うんうん頷くミニエルは補足として細かな部分として印として使われているのは過去にファヌエルが落とした宝石箱の中身の一部だとか何だとか指摘はするが、概ねタクトの言う通りの事を知っていれば問題はない様だ。
「つまり王族は絶対なんです、敵に回したら結界の外に追放されますから。子供だからって許される線引きはあるかもしれませんが、超えたら終わりなのに変わりありませんからね?」
一瞬頭の中に閃いた、子供の姿を利用すると言う羞恥心の抜けきらないタクトの苦肉の策ともとれるアイディアは無残にも打ち崩される。
孤児院での話を可能な限り思い出そうとするがすべての記憶を引っ張れる訳も無く、タクトはミニエルにこの世界の常識と礼儀作法なども一緒に習う事となる。
扉がノックされタイムリミットが告げられる頃には、用意された飲み物は冷たくなっていた。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
謁見の間。
玉座に座るは明らかに老人と言った姿の男性。
白い髭を蓄え赤いマントが派手さを演出する衣装は、それでいて下品でなく
少し垂れ気味な細い眼もとは優しさを感じさせるが、頭に乗った黄金の威厳を感じさせる王冠が正しく国王なのだと印象付けた。
タクトは膝まづいて顔を伏せると、先ほどミニエルから習った礼儀作法を実践する。
「お、お初にお目にかかります。勇者たきゅ…タクトでしゅ…」
噛んだ。
何処からともなく可愛いとの声が聞こえた。
何だか生暖かい目線を感じる気がするのは気のせいであって欲しいと願うタクトの元に
顔を伏せたまま、煩いと返すも付け焼刃だから仕方ないですけどねとも言われる始末。
だがこのやり取りで少し緊張が解れた気はするようで、伏せたままの顔に少しの余裕が生まれた。
ほんの僅かであるが軽口をたたくミニエルに感謝する。
「顔を上げよ」
王からの許しが出て初めて顔を上げる。
姿勢はそのままだ。
「ほう、小さいのに確りとしておるな、偉いものだ」
どうやら噛んだ事は気にせずにいてくれるらしい。
それから王の子供――つまりは王子の小さな頃はあんなでこんなでと言った話が繰り広げられる。
やんちゃであった事から直ぐに城を抜け出そうとする事や、初恋の女の子との話から果ては食べ物や趣味の話になりそうになった所で、堪らず側近の一人が止めに入る。
この王様、おしゃべり好きなようだ。
「おお、すまんすまん。キミ位の年齢の子を見ると未だに思い出してしまってな、許してくれたまえ」
優しい笑顔でそう言われるタクトは一つ頷くと、王は咳ばらいを一つ。
漸く本題を切り出す様だ。
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