第7話:思ったより小さい

「…光だ、光の柱だ」


 少し経った頃だろうか、砂煙が落ち着いた頃に誰かしらそう呟いた。

 ペタリと座り込んだタクトの耳にも届いてはいるのだろうが、それ以上に周りの騎士たちの反応の方が大きかった。


「あれが、あの伝説の?」


「え?マジか?あの光なのか?」


「…凄いボウズだ」


 等と口々に声に出してはまるで子供の様に喜ぶものまで現れる。


「俺、憧れてたんだよなぁ。これが本物なのか!」


 徐々に放心状態だったタクトの意識が戻ってくる頃にはすっかり皆が盛り上がりの頂点に達している様子で、これまでの所謂お堅い対応とは違うギャップに戸惑う事になる。

 これまで護衛に徹した盾を持った騎士も馬上槍を持った騎士も魔法を使っていた騎士たちも隊長と思われる騎士も一緒くたになってタクトをもみくちゃにするのであった。



 ◇◇◇◇◇     ◇◇◇◇◇



 あれから暫く、漸くテンションも落ち着いてきた。

 タクトは騎士たちの治療をミニエルに任せると、瞬く間に傷を癒し、癒しの奇跡だとまたも騒がれたりしたが。

 ミニエルの姿が見えないため、これもまたタクトの功績と捉えられたようだ。

 全員の治療が終わった後、様々な話をした。

 最初は只の護衛任務だと認識していた騎士たちであった故か、名前も告げられず簡単な紹介しか受けていなかったが、今ではすっかり知り合いと言える位には仲良くなれただろう。

 それから何故このような大型な魔物が突然現れたのか、と言った話を一通りすると騎士たちに驚かれたりもしたが、最終的には先ほどの戦闘の一幕や治療などにより納得する事になる。

 確かにあんな凄い魔法が使えるのなら焼け石に水かもしれないが、と前置きをした上でこいつを使ってはどうだろうかと騎士小隊の隊長がとある提案をした。

 その様な経緯を経て、現在は裏苦噛滅リクガメから晶石を取り出している所である。


「よし、取れましたよ」


 魔法を使っていた方の炎を得意とする騎士が取れたての晶石を手渡してきた。

 これだけの巨体なんだから凄く大きいんだろう等と思っていたが、予想とは裏腹に一欠けらの小さな真っ青な石を手渡された。

 地球で言うペットボトルの蓋程度だろうか?その位の大きさである。


「思ったより小さい」


 素直に感想を口にすると、馬上槍を持っている騎士に盛大に笑われる。


「はは、体が大きいから石も大きいだろってか?俺も昔はそう思ってたさ」


 可笑しいよなって感じでタクトの頭を軽く叩きながら気持ちのいい笑い声を出す。

 タクトもその言葉に賛同するように再び小さいなぁと声に出す。


「青いのはAランクの晶石、小さいけどとっても凄いんです」


 それからどれ位この石が凄いのかを語りだす。

 何でもこれ一つで金貨十枚程になると言う。

 金貨とはこの世界の通貨の事で、そもそもこの世界の通貨は銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨と種類があり右に行くにつれて価値が上がっていく。

 銅貨百枚で大銅貨となり、以降百枚になると位が上がる。

 大銅貨百枚で銀貨一枚なので銅貨一万枚で銀貨一枚枚分となる。

 そんな銀貨が更に一万枚で金貨一枚となるのだから物凄い大金であるのは容易に判る。

 価値を告げられ思わず落としそうになるそれをしっかり握りしめる姿に周りは微笑ましい笑顔を見せる。

 ミニエルだけはニヤニヤと笑っているのであったが、タクトはそれを見なかった事にする。


「加工までは此処では出来ないが持っているだけでも確り効果がある筈だから、勇者君にはそれを大事にして貰おうか」


 騎士小隊長がからかう様に言うとタクトは頷きファヌエルから貰ったメッセンジャーバッグ――正式には無限収納鞄と言うらしいが、この中に入れようとするが、ミニエルがそれを止める。

 何でもこの中に入れたものは時間が停止するので晶石の効力も止まってしまうとの事で、そいつは不味いと思い直しズボンのポケットに入れるのであった。

 裏苦噛滅リクガメの死体についてはこのまま放置で構わないとの事。

 バラバラにするにしても運ぶにしてもこの人数で準備も無しには無理なので、王都についてからそれ専門の部隊を派遣するらしい。

 確りと休んだ後にタクトは動ける馬の背に乗せて貰い騎士たちと再び王都を目指すのであった。

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