第6話:それが出来たら苦労しねぇよ!
土が弾け飛び爆風が頬を撫でる。
破裂音に混じって聞こえてくるのは騎士たちの怒鳴りにも似た声。
馬車に繋がれていたはずの馬は既に姿を消し、また馬車も余波を受け既に半壊している。
護衛として同乗していた騎士はタクトを庇うように全面に立ちふさがり全ての脅威から身を守る。
その背中はさながら仁王立ちと称するに相応しい。
姿を現したのは想像を絶する大きさだった。
硬い甲羅を背負い短いながらに強靭な手足を備えた存在。
恐らく全長は百メートルを超えるであろう巨体が地面を文字通り破って飛び出して来たのだ。
「
一際豪華な兜を被った騎士がそう叫ぶ。
恐らくこの小隊の隊長なのであろう。
「は?カメ??あれが???…マジ!?」
思わずとも口から洩れる本音。
タクトにとってのカメはあくまで前世に存在する地球上の
ミニエルが
「勇者のボウズ、これは不味い。あいつに噛まれちまったら盾も鎧もまとめて屑鉄になっちまう。時間を稼ぐから少しでも遠くに逃げろ」
仁王立ちで爆風に乗って飛んできた礫から身を守ってくれた騎士は、振り向きもせずにそう言うと盾を構え直し
総員、攻撃開始!と隊長の号令と共に残りの騎士たちが武器を振るう。
一番先頭に立っていた騎士は一番槍とばかりに馬と共に駆けると大きく飛び掛かり獲物の馬上槍を突き刺そうとする。
その後ろでは二人の騎士が剣を掲げ火炎と雷の魔法を放つ。
更にその後ろでは隊長が魔力で陣を形成し、二人の魔法のサポートをしつつ指揮をしているようだ。
護衛の騎士はと言うとタクトの正面から動かず盾を構えたまま全ての攻撃に備えている。
この小隊は全員で五人。
これが普段からの役割分担なのだろう、実に綺麗な流れで連携しているように見えた。
((
どうすればと狼狽えるタクトに選択肢は有りますよと語りだす。
((一つ目、騎士の言うように少しでも遠くに逃げる。まぁ狙いはタクトさんですし騎士小隊が全滅した後に追いつかれて胃袋の中にお引越しな未来が見えますね))
いやいやいやとブンブン首を振りながらNoを突き付けるタクトに対し、次の選択肢を提示する。
((二つ目、私ことミニエルが切り札を使って
それもダメだろと思わず突っ込みを入れそうになるがグッと堪えるとNoを突き付ける。
((もう、我儘ですね…))
はぁとため息をつく振りをしてニヤリと笑う。
すぐ目の前では
そんな状況どこ吹く風とミニエルはタクトの頭の上に乗ると、次の選択肢ですと言う。
((じゃあ三つ目、とても可愛い五歳児のタクト君はナイスな勇者パワーで
「それが出来たら苦労しねぇよ!」
だが、ミニエルはニヤリと笑顔をそのままに。
((深呼吸して落ち着いて、あの
取り敢えず言われるが儘に深呼吸する。
前世の記憶故か、言われた事は取り敢えずやってみる的な習慣がそうさせたのかも知れない。
そして少し落ち着いた気がしてきた所で
タクトが今一番想像しやすいものはこれだった。
((
テンション高く大きく右手を振りかぶり、タクトの頭の上で叫ぶように指をさす。
無茶苦茶な事を言われているような気もしたが、やはり取り敢えずは言われた通りやってみると不思議と頭の中に文字が浮かび上がり、それをそのまま読み上げる事にした。
アニメーションの魔法少女が魔法を使う時に毎回言っていた台詞である。
前方に思いっ切り手を伸ばし直すと、掌を
気分故か何かは今のタクトには判らなかったが、魔力の集う熱を掌に感じた。
「
タクトはポツリと呟くと、自身の手から光が迸る。
前に立っていた盾を構えた騎士の鎧を僅かに削り、右上方をすり抜ける様に発射されたそれは
眩い光が炸裂したかと思うと、直撃した頭部を貫通し、そのまま背後を駆け抜けて空へと消えてゆく。
さながら地上から空へ流れる一筋の流れ星の様であった。
同時に激しい土煙と共に地響きにも似た揺れが起こる。
土煙が収まった後には何も言えずに立ち尽くす騎士たちと共に、ガタガタと身体を震わせ絶句するタクトの姿が残されるのであった。
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