第2話:お帰りなさい?早かったですね?
白い箱の中は何もない真っ白な空間であった。
真っ黒な空間から真っ白な空間とは何だと思うタクトであったが、相手――天使ファヌエルの言葉を思い出し、欲しいチートを思い浮かべる事にした。
「欲しいチートって言ったらやっぱりド派手な魔法とか世界最強の魔剣とかって言いたい所だけど、もっと実用性のあるものがいいよな」
考え込む事数分、顔を上げると本命のチートを思いつく。
「女の子にモテモテになるチートとかエロゲ的なやつも捨てがたいが、嬉しいのは多分その時だけだろうな…。よし、これにしよう。これならどんな状況でも使い勝手が良い筈だ」
思いついたチートを心の中で呟くと一瞬体が光った気がした。
それだけでタクトの脳裏には確かにチートを授かった事を実感できた。
自分のステータスが頭に出てきたかのような気分になれた。
そうすると目の前に幾つかのボタンとしか言いようが無いものが出て来る。
説明文らしきものが付属されている。
「ええ、つまりどんな転生方法が良いですか的な感じで良いのか?」
ちょっと疑問に思いながらも青いボタンに書かれている”景色がとても良い転生方法”と言うボタンを押す事にした。
すると白い空間が弾け飛び世界に色が付いたようにカラフルな景色が現れた。
とても清々しい青に包まれ頭上には薄青と黒が混ざったような空間が広がり、タクトの居る場所から下には緑と青と茶色が見える。
それらは段々と大きくなりやがて…
「うぎゃぁ~!!!ちょっと待ってこれ無理無理無理だから~!!!」
タクトの絶叫が空しく響き渡るもどうしようもなかったのであった。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
気が付くと真っ暗な空間に居た。
「お帰りなさい?」
さっき見た顔がタクトの顔を覗き込んでいた。
ゆっくりと体を起こすと周りを見渡す。
やはりさっき居た空間に相違ない。
「早かったですね?何があったかちょっと見て見ましょうか」
そう言って見慣れた顔はブラウン管のテレビのダイヤルを回して映像を映し出す。
但し画面は荒い。
そこには絶叫しながら高度一万メートルからパラシュート無しのスカイダイビングをするタクトの姿が映っていた。
「あちゃー、これは助かりませんねぇ…」
頭を抱える相手に対し、タクトは額に血管を浮かべながら話を切り出す。
「あちゃーじゃないでしょ、生まれ変わったと思ったら即死って酷すぎない!?」
お怒りは最もですと言った感じで項垂れたあと白い箱を何か調べるかのように持ち上げ覗き込んだりして原因を探っている。
「可笑しいですね、彼女も同じボタン押したけど問題なかったんですけどね」
暫く探っていたが判らないとばかりに箱をぽいっと投げるとタクトに向き直る。
「こちらの不手際でごめんなさい。っとよく考えたら自己紹介もしてませんでしたね」
そう言って差し出したのは一枚の名刺。
――奇跡の天使 ファヌエル――
引き籠り対策に困ってます
と書かれていた。
「あ、どうも。ご丁寧に」
ついつい就職活動時代の癖が出てしまい頭を下げながら受け取ってしまう。
名刺を見たタクトは疑問符を頭に浮かべる事となる。
「はい、畏まらずにふぁーちゃんって呼んで良いんですからね?」
さっきから予想外の連続に耐性でも出来てきたのだろうか、考えるだけ無駄だと悟ったのだろうかタクトは破れかぶれだとばかりに大きく頭を振ると目の前の相手――ファヌエルに向き直る。
「ふぁーちゃんは兎も角、天使ってのは判った…判りました。」
「いや、判ったで良いんですよ、天使って大したことありませんし、是非楽にね?」
そう言われてもと言った感じを受け取ったが言われるままにする事にした。
「折角付属した初心者転生キット(とても強い魔剣と死んでいなければ何とでもなるお薬セット)も全部ダメになっちゃいましたし、仕方ないので私が直で送り届けますね」
え?そんなのあったの?と思わず突っ込んでしまいそうになるのを寸前で飲み込んだタクトは代わりの質問をする事にした。
「代わりのアイテムとか貰えたりとかは?」
暫し考え込んだ後ファヌエルは両手を上げて頭を振る。
「在庫無いんですよね…」
「そっすか」
仕方ないですねぇと言いながらもファヌエルが取り出したのは紙とペン。
「良いですか?今から私が一筆書きますのでそれを持って行ってください。何だかんだで役に立つと思いますよ。」
そう言ってサラサラっと書き上げると二つ折りにして可愛い便せんに入れて封をすると手渡してくる。
タクトはそれを受け取ると懐に入れる。
「これは誰かに渡したり?」
意図がいまいち読めないタクトは疑問符を浮かべながら質問するが、持っているだけで良いですよと返されそのまま仕舞い込むことにした。
仕舞うのを見たファヌエルはこれも序にとばかりにテーブルに黒いメッセンジャーバッグを置いた。
「初心者転生キットの代わりと言っては何ですが、一筆書いただけでは可哀想ですし持って行ってください」
はいどうぞっと言わんばかりにバッグを持ち上げる。
「このバッグ自体の重さは兎も角、中に入れたものの重さを感じる事なくどれだけ物を入れても一杯になる事はありません。バッグの中は時間が止まっている扱いなので物も劣化しませんし食品が腐ったりなどもありませんよ、便利でしょう?」
実際とんでもない代物だろう事はタクトにも理解できた。
例えるのならドラ〇もんの四〇元ポ〇ット。
そんな便利アイテムを持って行けと言うのだ。
「いやぁ、ありがたいなぁ流石天使様だなぁ」
余りの事にファヌエルを褒めバッグを抱きしめる。
タクトにとってのお気に入りになったようだ。
ひとしきりバッグを眺め開け閉めしたりと感覚を確かめる。
「んーと、そろそろ良いですか?今度は失敗しないようにちゃんと私が転生させますからね?」
ファヌエルが手をかざすのを見て頷くタクト。
掌から光が溢れタクトに降り注ぐと徐々にタクトの体が消えて行くのであった。
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