第2話 逆異世界暮らし

 カイルが目を覚ますと知らない場所にいた。


 辺りは夜になっていた。


 カイルは路地のコンクリートでできた壁にもたれかかって座り、隣には電柱があった。


「俺は…そうだ!確か扉に入って…ここはどこだ?」


 カイルは目をこすりながら立ち上がった。周りを見渡すと建物が並んでいた。

 カイルがその場で周りを見渡していると一人の男が近づいてきた。


「君キョロキョロしてどうしたの?その恰好はコスプレイヤーかな。道にでも迷ったのか?」

「コス…プレイヤー…ってなんだ?ここはバルーゲンじゃないのか?」


 その男は首をかしげた。


「バルーゲン?異世界みたいな名前だね。ここは地球っていう世界の日本って所だよ」

「俺は…バルーゲンって世界の扉を通ってここに来た。俺の名前はカイルだ」

「えっ?あぁ、オレはレンだ。異世界から来たのか……オレはその話信じるよ!…で君は帰れないんだっけ?」


 カイルは難しそうな顔をしながら話しを続けた。


「帰る方法が分からないんだ。まだこの、ちきゅうっていう所に来たばかりだから」


 レンは思いついたような顔をした。


「ならオレの家に来ないか?ここで会ったのも何かの縁だし。それに普段一人だから話し相手いたら退屈しなさそうだしね」

「いいのか?会ったばかりなのに。なんか悪い気がするな」

「全然大丈夫だよ!君面白そうだし」


 そう言うとレンは先に歩き出した。カイルは慌ててレンに付いて行った。

 しばらく歩いて行った所にアパートのような建物があった。階段を上って行き、奥の扉がある所まで行くとレンは止まり扉の鍵を開けた。


「ここがオレの家だよ。ちょっと狭いかもしれないけど入って」

「ああ、お邪魔するよ」


 部屋に入ると壁が全面真っ白で、小さめのテーブルと座布団が二つ置いてあった。物が少なくシンプルな部屋だった。


 カイルはレンに促され座布団に座った。


「俺の部屋よりきれいだな。俺の部屋は散らかってるからな」

「そうなんだね。そういえば異世界から来たって言ってたけどどんな感じなの?」

「うーんそうだなぁ…魔法を使って戦ったりする、とかかなぁ」

「おー、まさに異世界って感じだな!後あれでしょ。魔物とかハーレムもあるんでしょ?」


 レンは前のめりにカイルに聞いた。


「ハーレム?俺は基本一人で狩りとかしてるからそれはないな」

「うわー夢が崩れる。ハーレムって異世界でよくあるから」


 レンは残念そうにうなだれた。それを見てカイルは不思議そうに首をかしげていた。


「ところでカイル君は歳はいくつなの?」

「そうだな。数えて7300日ぐらいか?」

「えっ?ちょっと待って」


 レンは急いで電卓を出し計算した。


「20歳なの?オレも同じだよ。なんだタメだったんだ」

「タメ、ってなんだ?」

「同い年ってことだよ」


 カイルはしばらく考えたあと理解したのか、頷いた。


「そういうことか。この世界の言葉は難しいな」

「これから覚えればいいんじゃない?」


 レンは話し終えると台所に行き、夕飯の準備を始めた。


「獲物とか捕まえなくていいのか?」


 そう言うとカイルは剣を振る動作をした。


「ははっ、地球は材料とか全部買えるよ。異世界はないの?」

「異世界はすでに調理されたものしかないから、店に行くか自分で獲物を調理するかだな」

「へぇー、そうなんだね。異世界の食べ物って美味しいの?」


 レンは台所から興味がありそうな感じで聞いた。


「まあまあ美味しいぞ。俺はスープ系が好きだな」

「そうかスープか。作ろうとしたの違うものだけど良いかな?」

「ああ。俺がいさせてもらってるだけだから何でも良いよ」


 レンは得意なパスタを作る準備をしている。パスタを茹(ゆ)でるために鍋に水を入れ、コンロの火をつけるとカイルが興味津々で覗き込んできた。


「今どうやって火を点けたんだ?魔法を使ったのか?」

「魔法じゃないよ。ガスに火を点けて燃やしてるんだよ。まあ詳しい仕組みは分からないんだけどね」


 カイルは目を輝かせている。


「すごいな。魔法を使わずに料理するなんて初めて見たな」

「地球では科学っていうんだよ。科学の力を使って色々なことを便利にしたりするんだよ」

「俺の世界にも科学があったら便利になるだろうなぁ」


 カイルは羨ましそうにしていた。


 2人が話しているうちにレン特製のパスタが完成した。それをカイルがよだれを垂らしそうな顔をして見ている。


「これは何ていう料理だ?いい匂いがするけど」


 カイルは鼻をヒクヒクさせて匂いをかいでいる。


「ペペロンチーノだ!この赤い唐辛子が少し辛いけど美味しいんだ!オレはけっこう好きで食べてるよ」


 レンは自信満々で言った。


「ぺぺ、ろん、ちーの?変わった名前の料理だな。この細長いのがパスタか?俺の世界ではメンって言うんだ。これも好きな料理の一つだな」

「そうなんだ!こっちでもパスタのことをメンとも言うよ!」

「メンとパスタは同じなのかー。またこっちの言葉を覚えたぜ!」


 カイルは言葉を覚えられて嬉しかったのか、ガッツポーズをした。


 カイルはフォークでペペロンチーノをすくい口に入れた。その瞬間カイルは飛び上がった。


「なんだこの美味い料理は!少し辛みがあるけどスパイスが効いてて、どんどん食欲が沸いて来る美味さがある!」


 カイルは立ったまま目をキラキラさせている。


「いや食レポ上手いな!そんなに気に入った?」


 レンは軽くツッコミを入れた。


「ああ。これは今まで食べたことがない味だ!俺が食べた中で一番の美味さだ!」

「そんなに気に入ったならまた作ってあげるけど」

「本当か?やったぜ!」


 カイルは子供のように喜んだ。

 カイルとレンはペペロンチーノを食べ終わり、レンは食器を洗っている。


「そうだカイル。シャワーでも浴びたらどうだ。汗かいてるんじゃない?」

「シャワーって何だ?」


 レンは、シャワーがお湯を出せる機械で汗を流すために使うということを説明した。


「俺の世界では水の魔法で体を洗うんだ。それが一番手っ取り早いからな」


 レンはシャワー後に自分の服を着るようにカイルに言った。


 カイルはトイレの隣にあるお風呂の脱衣所に行った。

 そしてお風呂の脱衣所で服を脱ぐと、お風呂場に入った。レンに教えてもらった通りシャワーのハンドルを回した。するとシャワーからお湯が飛び出した。


「うわっ、本当にお湯が出た。これも科学か」


 カイルはシャンプーで頭と体を洗いシャワーで流した。しばらくシャワーを堪能した後お風呂場から出た。


 お風呂場から出ると脱衣所に着替えが用意してあった。カイルは、そのレンが貸した服に着替えて居間に行った。


 居間には布団が出してあった。


「シャワーどうだった?」

「ああ。魔法でやるのも良いけどシャワーも良いな!気持ちよかったよ!」


 レンの服を着たカイルは、右手をグーにして親指を立てたポーズで言った。


「シャワーを気に入ってもらえて良かったよ。オレも浴びてくるからね」


 レンはお風呂場に向かいながら言った。


「何から何まで悪いな。このお礼はいつかするから」

「いいよお礼なんて。オレが好きでやってるだけだから」


 数十分するとシャワーを浴びたレンが戻って来た。レンも着替えて部屋着になっていた。


「もう電気消しても良いかな?」

「ああ、良いよ」


 カイルは布団に入り、レンはベッドに横になった。

 そして、レンがカイルに話しかけた。


「地球はどうだった?異世界と違って過ごしづらかったんじゃない?」

「魔法がない分、楽が出来なかったのは確かだな。でもこういう生活も悪くはないな」

「そっか。まあ慣れちゃえば暮らしやすいかもね、地球も」

「ああ。こっちでもしばらくは何とかなりそうだ」


 しばらくしてレンの寝息が聞こえてきた。


(レンは疲れたんだな。色々やってもらったからな……バルーゲンに、戻る方法はあるのか…今は考えても仕方ないな。今日はもう寝よう)


 そしてカイルは目を閉じて眠りについた。

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