ニート時々神様

@ringoame_syousetu

第0社:プロローグ

 もう蝉が鳴き始めてから1週間が経った。フランスでは熱波の影響で40度を超える日が続いているそうだ。

 太陽は修二の就活と対比するかのように絶好調らしい。

 「こんな暑い日に真っ黒のスーツ着て面接とかありえないだろ。面接官も汗臭い人間の相手なんざしたくないだろうに……」

 古びたアパートの一室で蝉がうるさい中窓を開けて扇風機を回しながら、黒い短髪の青年がアイスを咥えながら今にも溶けそうな表情でそう呟いた。

 大学生の就活と言えばほとんどが夏になる前に数個の内定を獲得しているが、修二は未だに内定0個であった。

 インターネットニュースは大手自動車メーカーが2万人以上の人員削減を取り上げている。

 「まったく、こんなニュースが出てるようじゃ就活生有利なのかわからんな」

 俺が未だに内定を持っていないのは世の中のせいだと言わんばかりのセリフの吐き方をしていた。実際この男に内定がないのはどこにもエントリーをしていないからである。そもそも就活生としてのスタートラインにすら立っていなかった。

 友人や研究室の教授からは来年からどうするのかと聞かれたが彼はどうにかなるだろうと返すので周囲も最近では諦めムードになっていた。

 ピコんっ。溶けそうな顔の修二の前に真っ暗な画面で佇むデスクトップPCが鳴った。

 「メール?誰だろ」

 夏休みと言えどもこんな昼間からゲームの大会があっただろうかと思いつつメールを開いて修二はギョッとした。

 『修二様

 我々シマウマカンパニーは貴殿の何事にも負けない競争心と発想力に興味があります。一度弊社の会社説明会にお越しになりませんか』

 (なんなんだこのふざけたメールは……たぶん春に登録した就活サイトからのメールだろうな)

 よく来る勧誘のメールだろうと思い修二は画面を閉じようとした。

 「ん?」

 画面を切ろうとした際に謝って画面をスクロールしてしまったことでメールの続きが修二を焚きつけた。

 「なんのつもりか知らんがええ根性しとるやんけ。ええやろ。何を企んでるんか知らんけど話し聞きに行ったろやないか」

 メールの最後に書かれた一文を読んで修二の目が輝いたのだ。そこには『貴殿の夢はうちでしか叶わないと自負している』と書かれていたのだ。

 (なーにがうちでしか叶わんや。俺の夢を叶えられるんは俺だけやふざけたことぬかすなよ)

 この一通のメールが修二の人生を大きく変えることをこの時はまだ誰も知る由がなかった……

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