おやすみちょうちょ

創心

『おやすみちょうちょ』

○月✕日

いつもの帰り道、道路の端のコンクリートに

いっぴきのちょうちょがひらひら


近づいて見てみると

ちょうちょのボロボロに破れたはね

風に吹かれていたようです


しにかけちょうちょう

手のひらに乗せ、そっと指を近づけると

2本だけになった前足が必死にしがみつきました


小さな、小さなそのからだが、

風で飛んでいかないように両手で包んで

真っ直ぐ道を歩いていく


綺麗な夕焼けでした

いつもと変わらない景色です

けれど、この手の中で

もうすぐちょうちょがしんでしまいます

細い前足の感触が、

頭から離れてはくれません


漸くお家に着いて

玄関の鉢植えの中

綺麗な葉っぱをしいて寝かせました


そばについて 見届けたかったけれど

その足が動かなくなる最後まで触れていたかったけれど

この子にとってひとは

大きくて 恐ろしいものでしょう


新緑の小さな芽をつんで

代わりにそばにおきました


お家の中で

暖かなごはんを食べながら

ぼくは哀しくなって

お話を書くことにしたのです


「おやすみちょうちょ」

きっともう 眠りについた頃でしょう

おやすみなさい

どうか どうか 安らかに

祈りながら

意味の無いことだと知っていても


死の寸前

目の前の何かに

必死にしがみつくあの姿に

どうしようもなく

心を打たれてしまって

あふれた感情が止まらなかったのです


きっと ぼくだけが見た最期のすがた


さようなら さようなら

またいつか会えたなら


もう一度

あなたの最期に触れさせて


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おやすみちょうちょ 創心 @_sousin

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