記憶
君は不思議な夢を見る。君はその内容を覚えていない。あるいは覚えていないふりをしている。目が覚めたとき、君は子供のころの記憶を思い出す。君は誰かに手を引かれて歩いている。それが誰なのか君にはわからない。少なくとも母親ではない。でも君がそう思っているだけで母親だという可能性もある。彼女が君をどこに連れて行くのか君は知らない。あるいは知らないふりをしている。
君はベッドから起き上がり、カーテンを開ける。朝日が窓から入ってくる。あるいはその日は曇りで、それほど眩しくはないかもしれない。君は窓の外を眺めている。君の頭の中にはまだ手を引かれて歩く幼い君の姿がある。幼い君はじっと前を見ている。その日見ていた景色を君は思い出せない。ただ誰かに手を引かれて歩いていたという事実だけを覚えている。
君の耳にはピアスが付いている。君はピアスを触り、それがいつも通りそこにあることを確かめる。どうしてピアスを付けるようになったのか、君はもう忘れてしまった。あるいは忘れたふりをしている。とにかくそれはそこにある。ほとんど体の一部として。
どうしてこれほどまでに不確かなことが多いのだろう。記憶の中で何もかもが泥の中に沈んでいく。君は何も覚えていない。あるいは覚えていないふりをしている。時間だけが過ぎていく。あるいは何もかもが過ぎていく。君は流れに身を任せている。あるいは必死に流れに抗っている。どちらでもいい。同じことだ。
小説ドリル 僕凸 @bokutotsu
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