卵の入ったお粥⑤ 廃された王に捧ぐ一膳


 役目を終えた宵鈴は、その日のうちに宮殿を出た。それからもともと住んでいた街に戻って、食堂を再開させた。食堂はすぐにまた多くの客でにぎわい、繁盛した。


 暁王の死は、長く患っていた心身の病が原因ということで片付けられていた。叛乱はしばらくして官軍により鎮圧された。その後の世の中は、康夜が話していた帝の思惑通り平和なものだった。ある意味では、宵鈴の行為は大勢の利益につながるものであった。


 だが、どのような結果であったとしても、宵鈴は自分が暁王に対してしたことが許されるとは思わなかった。

 人を殺すという行為は、それだけですでに十分罪深かった。宵鈴は、幼い心で疑うことなく自分を信頼してくれていた暁王を騙して殺した。その罪は、これからどんな生き方をしても贖えるものではなかった。


 しかしそれでも、宵鈴は宵鈴なりに心の中でけじめをつけた。

 望むと望まざると、暁王を苦しませずに殺すことは他の誰にもできなかったのだと、宵鈴は自分を納得させた。あの未熟に退行した王に最後の食事を捧げられたのは、宵鈴だけだった。選んだのは死なせる道だとしても、それは宵鈴なりの想い方だった。


 そして宵鈴は、その後も食堂を営み続けた。それが暁王の望みでもあるはずだった。生きている限り、宵鈴が料理をやめることはなかった。

 だが、卵と木耳の粥だけは二度と作らなかった。

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