4.Tortilla de patata ―騎士と騎士見習い― 

厚焼きの卵料理① 騎士見習いと城

 クルスの父は騎士だった。

 祖父も、曾祖父も、曾々祖父も騎士だった。


 彼らの活躍の歴史を聞いて育ったクルスは当然のように、自分も将来は騎士になるものだと思っていた。


 だから次の誕生日で十二歳になる夏、クルスは伯父アンドレスが城主のソロルサノ城で騎士見習いの小姓として修行していた。


 ソロルサノ城は、青い屋根の天守をぶ厚い防壁で囲んだ広大な城で、さらに水の張られた堀を備えていた。

 防壁では兵士が物見のための塔とのこぎり状の壁によって守られた歩廊で見張りに立ち、中庭では使用人や家畜が忙しく行きかい鍛冶屋や陶工などの職人が仕事場を構えている。その大勢の人々が暮らし生きていくだけの広さを、ソロルサノ城は持っていた。


 クルスは防壁の内部に設けられた部屋のうちの一つで、他の小姓ともに寝泊りした。

 与えられた部屋は狭く小さかったが、ソロルサノ城全体は生まれ育った故郷の城よりもずっと立派で大きくて、クルスは城内を歩くたびにわくわくした気分になった。自分は小姓として城で働くことであこがれの騎士に近づいているのだと、疑うことなく信じていた。


 ちょうど今年の初夏のころ、ソロルサノ城は隣国デラロサの軍勢に攻撃された。

 数に勝るデラロサ軍に囲まれたことにより、ソロルサノ城では籠城戦が始まった。戦況の見通しは悪く、城の反撃も敗北が続いている。


 しかしデラロサとの戦争は突然の思いもよらない出来事であったが、戦火はクルスの気持ちを常にくじけさせるものではなかった。

 むしろ戦乱の中で騎士の活躍を身近に感じ、クルスはより強く将来の夢を思い描いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る