卵の入ったお粥② 誰も知らない海
それから宵鈴は、毎日暁王のために料理した。求められるのは、やはり粥が多かった。
宵鈴の作る粥は、好みの難しい子供でも食べやすいと食堂でも人気があった。だから毒を盛られた影響で偏食が激しくなった暁王も、宵鈴の粥は喜んで食べた。
粥の味だけではなく宵鈴自身も気に入られたらしく、宵鈴は食事を運ぶ役も受け持った。今の帝に行動を制限されている暁王は、宮殿から出ることを許されてはいなかった。そのため、宵鈴はほぼ毎日暁王に会った。
宵鈴が会うときの暁王はいつも上機嫌で、待ち切れない様子で食事を待っていた。
「きょうのおかゆは、ほたてのだしもつかってるよねぇ?」
粥を一口食べた暁王が、きらきらと目を輝かせて宵鈴に聞いた。
宵鈴は静かに受け答えた。
「はい。さようでございます。ほんの少量ですのに、よくおわかりになりましたね」
「えへへ、すごいでしょ」
誇らしげに暁王が笑った。大人びて美しい外見とは不釣り合いな、子供っぽい笑い方であった。
だが、宵鈴はいつの間にかそういう暁王の感情表現に完全に慣れていた。だから何も言わずに、暁王を見守った。
「これはとてもおいしいから、ははうえにもたべさせてあげたいねぇ」
大事そうに椀の中の粥を食べながら、暁王は言った。暁王の生母はとっくの昔に死んでいるのだが、精神の退化とともに記憶も失っている暁王はその死を忘れていた。何度説明されても、理解することはなかった。
「でも、ははうえはどこへいったのかなぁ? しょうりん、しらない?」
暁王が宵鈴に、不思議そうな顔で尋ねた。くちびるには、飯粒がまだついていた。
そんなことを聞かれても困ると思いながらも、宵鈴は優しく暁王に微笑んだ。
「どこへ行っていらっしゃるのでしょうね。殿下は、どこだと思います?」
「うーん、うみってところとかかなぁ。うみってほたてがたくさんすんでるらしいよ。しょうりんはうみ、みたことある?」
宵鈴のごまかしに気づくことなく、暁王は素直に別の話へと逸れていった。
ほっとした宵鈴は、今度は嘘をつかずに答えた。
「あります……というよりも私は海の近くの出身です。帆立や海老、魚を食べて育ちました」
「いいなぁ、しょうりんは。ぼくもうみに、いってみたいねぇ」
そう言って、暁王は食事を続けた。暁王の考えている海がどんな場所なのか、きっと宵鈴には想像もつかないような景色を心に描いているのだろうと思った。
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