ライ麦のパン② 放り込まれた牢獄
それからしばらくの出来事は、アデールは断片的にしか覚えてない。
護衛の兵士たちは皆殺され、ノエラの死体は切り刻まれた。
一人生き残ったアデールは、暴徒たちに捕らえられた。残念なことにアデールは、乱暴に扱われても殺されることはなかった。
アデールが嫁ぐはずだった領主マルトノも殺したのだと、暴徒のうちの誰かが言った。
だが王族のお前は人質なのだとまた誰かが言って、アデールは麻袋に押し込められて運ばれた。
そうして気付いたときには、アデールはドレスから薄汚れた粗末な衣服に着せ替えられて、月明かりに照らされた狭い石造りの牢獄に入れられていた。
(ここは、本当はノエラと来るはずだった城でしょうか)
薄着で石の床に投げ出され仰向けに放置されたアデールは、身震いをして我に返った。
平民の家とは思えないほどの重々しさから察するに、アデールはおそらく持ち主が殺され占領された領主の城にいるらしかった。
牢獄は高い塔の上にあるようで、手の届かない高さに設けられた採光窓からは夜烏が飛んでいるのが見えた。
下の階へと通じる落とし戸は頑丈な鉄格子の向こうにあり、抜け出すことは絶対にできそうになかった。
髪飾りをむしりとられた髪は乱れてもつれ、小柄な身体に対して過剰に重くかせられた足枷がアデールから自由を奪う。
たとえアデールが一国の王女ではなかったとしても、それはみじめな姿だった。
秋の夜の冷え込みに凍えたアデールが這うようにして暖を取るものを探すと、部屋の隅には藁が積んであった。どうやらそれが、寝具の代わりであるらしかった。
アデールは恐るおそる藁にもぐり込み、枕もなく再び石の床に横になった。牢獄は狭かったが、人が一人寝起きすることができるくらいの面積はあった。ごわごわとした感覚は慣れなかったが、暖かくなったことには違いはなかった。
しかしそうした最低限のものが用意されているということは、少なくとも当面の間はアデールに死は許されていないことを意味している。
(どうか、何かの間違いでありますように……)
今までまったく経験することがなかった突然の苛虐に、アデールは自分に降りかかった不幸を嘆くこともできないまま目を閉じて祈った。
これが現実であるのなら、もう目覚めてしまいたくはなかった。
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