フィロ生地の焼き菓子④ 変わらない日々
それから雨季と乾季が何度か繰り返されて、気付けばいつの間にかもうムフタールがカリフになって七度目の夏になった。
(暑くて、眠い……)
国政会議が開かれているその中で、ムフタールは即位したばかりのころとは変わらず、暑さに頭をぼんやりさせながら玉座に座っていた。
装束も心構えもそのままで、ただ年を重ねたことだけが事実としてある変化だ。
「では次の議題に入ります。アリー大臣」
同様に変わらない役割を果たし続ける宰相のサレハが、能なしの君主であるムフタールの代わりに会議を進める。
最近大臣の一人に加わった若年のアリーは、不安げに俯いて話し始めた。
「陛下の忠実な下僕アリーが奏上いたします。ラーメ人の首領が率いる教団が、勢力を急速に伸ばしています……」
ムフタールが流し聞いたところ、アリーの報告は異端の教えを広める教団についてのようだった。元々あまり良い話題がない会議だが、ここ数カ月は特にきな臭い話しかない。
諸々の話を聞いていると、どうやらこの帝国にはムフタールが生まれるずっと前からすでにいくつかの問題があるようだった。
王朝を打ち立てた砂漠の民であるハキーカ人と滅んだ大国の民であるラーメ人の対立は建国当時から尾を引くもので、その他の異民族の反乱も始まりを辿ったところでムフタールには理解できないほどきりがない。
またさらに父王サッタールが栄光ある治世の中でたびたび行っていた臣下たちの粛清により、広い国土を治めるための人材が不足しているようでもあった。
(どうせ結局の原因も解決する方法も全部俺にはわからないんだから、考えるだけ無駄だけどな)
ムフタールはあくびを堪えて、神妙に話を聞いている体で目を閉じた。
ふりをしたところですでにムフタールが傀儡であることは周知の事実であるが、せめて建前を維持する努力だけはする。
そうこうしていると、サレハの凛とした声がムフタールを呼んだ。
「陛下、それでよろしいですね?」
優雅に羊皮紙を手に持ち、サレハはムフタールの方を見ている。
ムフタールは自分が何の確認をされているのか話の流れを掴んでいなかったが、サレハに任せていれば間違いはないはずだと頷いた。
「ああ。サレハの言う通りに」
何であれ答えは一つであるので、ムフタールは問いを知る必要もなかった。
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