6.雪濃湯 ―霊廟に仕える巫女― 

牛骨の煮込み料理① 飢饉の記憶

 空気が寒々と澄んでいた冬のその日。


 幼いハユンは飢えて死にそうになりながら、庭を這って雑草か何かを探していた。

 しかし食べれるものはもうすでに食べ尽くしてしまった後だったので、地面には枯草一つ残ってはいなかった。


(やっぱり、ない……)


 ハユンは諦めて、地面にうつ伏せに力尽きた。

 地面は固く冷たくて、土を口に含むこともできそうになかった。


 ハユンがそのとき住んでいたのは、大きな川から離れた台地にある寒村である。


 もともと豊かな土地ではないものの、本来ならそのころは各家で醤漬けを作り保存食としている季節を迎えているはずだった。粟飯と初冬に作った醤漬けが、冬中の食糧になるのだ。


 だがその年は大旱魃が起きており、米も白菜も何もかもが不作だった。

 雨がまったく降らずに稲がすべて枯れてしまった夏に、村の大人たちは怖い顔をしてこのままでは冬を越せないと話し合っていた。


 現実はゆっくりと時間をかけて、本当にその通りの未来を連れてきた。


(このまま私は、死んじゃうのかな)


 ハユンはどうしようもない空腹に、やせ細った手で地面に弱々しく爪を立てた。

 近くの木では、数日前に首を吊った父母が二人で揺れていた。彼らは残酷なくらいに優しくて、ハユンの人生も一緒に終わらせてはくれなかった。


(だったら、早く……)


 ぼろぼろになった木綿の服を、冬風が冷たく撫でていく。

 空を仰ぎ見る力もないまま、ハユンは両親と同じ場所に行けるその時を待っていた。

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