厚焼きの卵料理⑦ 終わりゆく夏
翌朝、バジャルドは死体になって戻ってきた。
大勢の敵を前に勇壮に戦ったが、途中で囲まれて甲冑の隙間を剣に貫かれてしまったらしい。
クルスにとってバジャルドは、それほど見知った相手というわけではない。
だがそれでもこれまでの戦死の知らせとは、やはりまったく違って聞こえた。
結局のところソロルサノ城はデラロサ軍に包囲されたまま、奇襲作戦は失敗して補給路が開かれることはなかった。
城の食事は今日も粗食で、籠城戦は終わらない。
ただ敗北の結果バジャルド以外にも大勢の兵が死んだので、食料の減る早さはゆるやかになり籠城できる期間自体は少し伸びたと貯蔵庫の係は言っていた。
クルスは彼らの死のおかげで、これからもしばらくは食べていくことができるのだ。
(それでもやっぱり、足りないけど。また、オムレツ食べたいな……)
当然のように満腹にならない昼食の後、クルスは中庭の隅に置かれた空の樽に座りバジャルドにもらった卵料理を思い出した。
あれから何日かたったが、卵料理の記憶はいつまでも鮮明なままだった。
もちろんバジャルドと話せたことも大事だが、空腹の中では料理の味の方がはっきりと思い浮かぶ。
「クルス、弓の稽古が始まるぞ」
遠くから従兄弟のアリリオの声がする。
「うん、今行く」
クルスは返事をして、立ち上がった。
剣や弓の稽古をいくら重ねても、実際に戦場へ行ったことのないクルスは武器を本当の意味で使ったことはない。
長い籠城戦の中で、どうやら現実は物語とは違うらしいことにクルスは少しは気づいていた。
だがそれでも、いやだからこそ、クルスは騎士になりたかった。
バジャルドは死ぬ前に、クルスの未来にはまだ価値があると言った。
しかし籠城戦はまだ続き、クルスは思うようには大人になれない。
(俺が騎士になる日って、本当に来るのかな)
クルスはアリリオが呼ぶ方へと歩きながら、ふと何気なしに城の天守を見上げた。
風は段々涼しくなっており、夏は終わり秋が近づいてきていた。
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