第4話

おばあちゃんの話を聞いた後も変わらずに、扉の夢を見た。

変わったこともあった。

おばあちゃんの記憶からこの夢のことが消えていたのだ。

昔の友達のことも、僕が話したことも、自分が話したことも。

本当に僕にあの話をするために忘れなかった、いや、覚えさせられていたのかもしれない。

変わったことはもう一つ、おばあちゃんの話通りにだんだんその生き物の姿がはっきりと見えて来た。

最近ではその夢に出て来た生き物たちと会話することもあるくらいだ。

夢の中だからか、どんな生き物であっても会話できる。

これがまた結構楽しい。



こんな楽しい夢は2,3ヶ月続いた。

そして、ある日、扉が2つになった。

どちらの扉も全く同じ白い扉だった。


おばあちゃんが言っていた間違えてはいけない選択をする時が来た。

ただ、どちらも全く同じだからどっちが選んではいけない扉なのかわからない。


そして、いつもと違うことが1つ。

いつも扉がある空間に、ヒトがいた。

いつもこの空間には僕以外に誰もいなかったのに…

そのヒトは中性的で、男か女か分からなかった。もしかしたら性別なんて無いのかもしれない。

そのヒトはただこっちを見つめているだけ。

しゃべらないし動かない。

不気味だ。

どうしたら良いのだろうか。

話しかけるべきか、話しかけないべきか…。

なぜか話しかけてはいけないような気がする一方、話しかけてみたいという好奇心が湧いてきた。

少し考えて僕は…


「君はだれ?」


話しかけることにした。


そいつはそろりそろりと、こちらの方へ近づいてきた。

ゆっくり…ゆっくり…。

そして僕の前で止まった。


「君は選択を間違えた」


そう言ってにんまりとそいつは笑った。


は?なんで?どうして?僕はまだ扉を選んでないのに…何故だ?

「僕はまだ扉を選んでない。まだ選択をしていない。2つの扉のどちらを開けるかを間違えなければいいんじゃなかったのか?僕はそう聞いたんだけど。」


「まあ、それも選択の1つだ。ただもう一つ扉の選択の前に選択がある。それは話しかけるか話しかけないか、だ。この選択を間違えると扉の選択には進めない。君は何か思い出せないことがあるだろう?」


そういえば、まったく思い出せないことがあった。

「“忘れてはいけないこと”」


「そう!それだよ!忘れてはいけないことなのに君は忘れてしまった。それは何故なのか。それは意図的に忘れさせられたから、このボクによってね。」


「どうして…」


「どうしてって、それはボクにとってはとても不都合なことだからね。ちなみに忘れてはいけないことっていうのは“絶対にボクに話しかけてはいけない”ってことなんだよね〜。扉の選択を間違えれば元の世界には戻れない。けど、人々の記憶には残る。しかし、ボクに話しかけると存在が消えてしまうからね!」


「なんで存在が消えてしまうの?」


「そんなのは簡単なこと、ボクに存在を食べられてしまうからね。ボクはこの夢に迷い込んだ人の存在を喰らわないと存在できない。だから、あのことを覚えていられると困るんだよね〜。」

「ということで、君はボクの食料だ!」


そんなことを楽しそうに笑顔で話すあいつに恐怖を覚えた。

嫌だ、怖い、なんで。

そして、ボクはあいつの横を走り抜けて一か八か正しい扉を選んで外に出ようとして走り出した。

あいつは追いかけてこない。

僕はドアノブを掴み開けようとしたが開かなかった。

は?嘘…なんで……。


「残念だったね〜。もう扉は開かないよ。ボクに話しかけた時点でもう開かない。君は逃げられない。分かったでしょ。もういいよね。それではいただきます!」


いつのまにかあいつは僕の真後ろに立っていた。

嫌だ…助けて…まだ死にたくないよ…だれか…たすけ…


「ごちそうさま。ただで楽しい思いが出来るわけないじゃないか。それ相応の代償は必要になるんだよ。それを忘れてはいけないよ。」





忘れるな

何事にも代償が必要だ



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夢の扉のそのサキは ネオン @neon_

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