第59話
「僕があの後どれだけ周りに気を遣って過ごしたことか…」
「しかも噂が噂を呼んで、いつのまにか他校のセレナにまでラルシュのしでかしたことが伝わってたなんてねェ…」
ニヤニヤしながらこちらを見てくる
「賢者様は今はそんなことしないっスよね?」
「当たり前でしょ!あれは若気の至りだから。今は人畜無害に過ごしてるから」
「どーだか分かったもんじゃないわァ」
「桜綾!」
…うん、まあ桜綾がこんな奴だってのは知ってたけど。
「桜綾は今何の仕事してるの?」
「親の決めた見合いで卒業してすぐに結婚したわ。相手は
今は大佐にまで出世してるけどねー、と言ってから再びティーカップに口をつける桜綾。
「子供はいないの?」
「んー…まァね…」
言葉を濁した桜綾に、何か事情があるらしいと察して僕と彩ちゃんは口をつぐんだ。
「…誘拐されちゃったのよねェ、赤ん坊の頃に」
「え?」
赤ん坊がいなくなった、という話に思わず僕は声をあげた。
プランツもそういえばそうだったんだっけ。それでグリンジの里の前に捨てられてたわけだけど…
「いつくらい?」
「もし生きてるとしたら今年で成人ねェ」
へえ、
真っ白な肌に黒髪、切れ長の瞳で涼やかな美人。俊杰と似てるといえば似てる。
まさか、そんな偶然あるわけないか。それに東洋人の顔はみんな似てるように外国人の僕からしたら思うだろうし。
桜綾が辛そうな顔になったので僕らはこの話をやめ、今年16歳になったと言う桜綾の次男の話に移った。
ヤンチャでしょうがなくて困ってる、という話に僕が思わず「遺伝でしょ」と突っ込んだところで、何かのメロディーが鳴り響いた。
「何、この音?」
「あ、私の時計っス。門限あるからもう帰らないと…」
そうか、彩ちゃんは学生か。香港は治安がいい場所もあれば悪い場所もあるし。
「本当だ、もう暗いね」
「賢者様、俊杰先輩が夕飯一緒に食べようって誘ってましたけど」
「うん、じゃあ言葉に甘えさせてもらおうかな。桜綾はこれからどうする?」
「私はこの後用事があるから、ここで別れた方がいいわねェ。じゃア、マタネ」
桜綾が手を振る。僕も伝票を持って立ち上がりながら、言いようのない違和感を感じてきた。
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