第57話

 ぱっきーん、と空気が凍る。裏切る?誰が?


「それって、…誰ですか?」

「さあね、そこまで詳しくは分かんないサ。でもアンタに害意をもって裏切るわけじゃ無いみたいだよ」

「それはどういう…」

「あと銀貨1枚で詳しく話してやるサね」

「賢者様、行きましょ!」


 僕が銀貨を取り出しかけたところで、ぐいぐいと彩ちゃんが僕の体を引っ張る。そのままその場を離れた。


「あーいう占いはあくまで遊びとして楽しむものっスよ!真面目な顔で根掘り葉掘り聞いたらぼったくられるだけっス」


 賢者様なんか格好のカモっスよ、と言われて落ち込む。

 でも割と当たってたから、というと呆れたように彩ちゃんがため息。


「ああいうのは間に受けたら駄目っスよ!」

「わかった」


 一応頷きながら、僕はぬぐいきれない嫌な予感を感じていた。


 それから参拝を済ませて、お土産でも買おうと売店に足を向けたところで誰かとぶつかった。


「きゃっ⁈」

「あ、唔好意思すみません!」


 サッと顔を上げた僕は驚きで固まった。相手も同じだ。


 隣に立っていた彩ちゃんが不思議そうに聞いてくる。


「お知り合いなんスか?」

「あっ…うん、その、学院時代の同級生」

「ラルシュ、久しぶりねェ!」


 からからと陽気に笑う、深いスリットの入った詰襟のチャイナドレスを着た美女。


「この美人さんは?」

「あ、紹介するよ。彼女は…」

「ラルシュとは何度も撃ちあった中の戦友なのよねェ」

「語弊があるよ⁈」


 僕は思いっきり、その和風美女…ワン桜綾ヨウリンに突っ込んだ。


「賢者様…銃刀法違反してたんスね!まあ誰にでもあることっスよね!」

「違うからァァァ!」


 ウィンクして親指を立てる彩ちゃん。桜綾も頷くな、拳銃出すな!


「とりあえず、お茶でも飲みましょうよォ」


 そういうわけで、僕は女2人と再び喫茶店に入ることになったのだった。


 …あれ、既視感デジャヴ


 そんなことを思いながら近くの適当な茶屋に入り、何故か話が弾んでいる女2人の誤解を訂正することにした。


「えっと、彩ちゃん。少なくとも僕は撃ってないからね⁇」

「あらァ、嘘は良くないわよォ?」

「バレなきゃ何でも良くないスか?」

「違うって…」


 うん、疲れる。この2人は疲れる。


「冗談よォ。あら、ラルシュは周りには話してないの?」

「当たり前でしょ。誰にも話してない」

「何なんスか、その事件って?」


 ふと彩ちゃんに聞かれて答えに窮する僕。他方、桜綾は目を細めた。


「昔の話なんだけどねェ、ラルシュはヤンチャしてたのよ〜」


 それは、僕がこれまで誰にも語ったことがない、否、語る機会を逃した過去の話だった。


「ヤンキー…ってことっスか?」

「うーん、ちょっと違うわねェ。強いて言うなら、過激派の優等生?」


 僕は無言を貫くことにした。

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