第56話

「あ、賢者様、提案があるんスけど。どうせ経費で落ちるなら遠い所行きませんか?」

「ちゃっかりしてるね?」


 ウキウキする彩ちゃんに苦笑する。


「使えるものは使わないとっスよ!金はあればあるほどいいし、食事も美味しい方がいいし。

 麗孝人っていうのは基本、皆んなそういう考え方なんス。

 だからご飯も美味しいし貧富格差が激しいんスよ」


 周りを見渡すと、確かにここら辺には裕福な人が多いけれど、働いている人の中にはかなり貧しそうな人もいっぱいいる。


「じゃ、夕方まで黄大仙ウォンタイシンに行きましょー!」


 彩ちゃんは見慣れているらしくサクサクと歩く。ガルシアでは労働者と貴族は住む場所自体が分かれているから、新鮮な光景だなぁ。


「そういや賢者様、黄大仙って知ってます?」

「どんな所?」

「簡単に言えばめちゃめちゃ派手な寺院ッス」


 彩ちゃん曰く、黄大仙というのは何個かの宗教が混ざり合っている寺院らしい。


 建てる時には罰当たりだという意見も多かったのかと思いきや、むしろ楽しむ風潮が強かったそうだ。


「もしガルシアで神社と教会を混ぜたものを建てようってなったらどんな感じなんスか?」

「うーん、反対するだろうなあ。紳士淑女の国だし、絶対建たないだろうね」

「国ごとの特色って面白いッスね。あ、着きましたよ!」


 路面電車の駅からほど近いところに黄大仙というのはあったのだけれど。


「…寺院なの?これが?」

「はい!」


 僕の知っている寺院は、木造でシンプルで美しい、神々しいものだ。


 だけど、この黄大仙という寺院は、真っ赤な壁に奇抜な色の飾りがあれやこれやと飾り立ててある。


 赤に金に青に緑に白に黄色に、目がとにかくチカチカする。


 うん、罰当たりだね。カラフルでオシャレな感じではあるけど。


 石段を上りながら彩ちゃんが面白いことを教えてくれた。


「ここは香港でも一番のパワースポットで、有名な占い師や呪術師もたくさん居るんスよ」

「へえ、せっかくなら占ってもらおうかな」


 敷地内にはたくさんの占い師っぽい人がいて、行列ができているところもあればガラガラのところもあったりする。


「あ、あの人とかいい占い師な予感がするッス!」


 彩ちゃんが指差したのは年齢不詳の、派手なベールを被った女の人。


 目元と口に真っ赤な紅をひいていて、不思議にけばけばしさは無い。


 お客さんはまばらで、すぐに見てもらえそうなので僕らはそこに並ぶことにした。


「さ、次は賢者様の番っスね!」


 彩ちゃんにグイグイと背中を押されて僕は1人で椅子に座る。


 何やら紙を眺めていたその占い師さんは、僕を見て楽しそうに舌なめずりした。


「お客さぁん、名前は?」

「ラルシュです」

「ふうん。アンタ、面白い運勢だねぇ。あたしゃ、見ただけで人の運命が分かるのサ。

 アンタにゃ何人もの守護者がついてる。…守護者との関係は先生ってとこかい?」


 当たってる…無言で頷いて唾を飲み込む。


「だがね、ラルシュさん。アンタ何年後かに守護者の1人に裏切られるよ」

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