第54話

「お待たせいたしました」


 まず僕の目を奪ったのは料理の美しさだ。俊杰チンチエ曰く、広東料理は素材の美味しさを生かすのが特徴なのだそうだ。


 料理を一通り並べたあと、そのボーイさんはなぜか取っ手の長いポットを持って立つ。


 何が始まるんだろ?と思っていると、小さな湯のみにトポトポと注ぎ始めた。


 要は、遠い位置から長い急須をつかって湯のみに注いでいるのだ。


 それもどうやらお湯みたいで、なんの飲み物だろう?と思いつつ湯のみを受け取る。


「!」

「八宝茶です」


 お茶に花が浮かんでいた。黄色に桃色、赤色、朱色の実。どれも色鮮やかで香りも上品だ。


「8つの花を浮かべているんですよ」


 綺麗なお茶だなあ、とシンプルに感心する。


「さ、食べましょう。前菜はくらげの和え物のようです」


 くらげ⁈

 思わず二度見してしまう。透明で何かのソースをかけられた刺身みたいなものは美味しそうではあるけど…


 くらげって食べられるんだっけ、なんて思いつつ口に運ぶと。


「美味しい!」

「当たり前です」


 コリコリした食感が結構クセになるし、ソースも甘辛くて美味しい。

 少し味に飽きたら花のお茶を飲んでみる。美味しい。ほんのり甘いけどさっぱりしてる。


「次はスープですね。カンと呼ばれるもので、すごく身体にいいんですよ。これはフカヒレですね」


 テーブルの円卓には、スープが入った大きな器がどーんと置いてある。

 前菜もそうだけど、大きなお皿からおのおの取るのもならでは。


 フカヒレスープももちろん美味しかった。

 フカヒレよりもスープのとろみが口に残る。

 割と塩の効いた味付けで、くらげの後にはちょうど良かったかも。


「次はメインのこれです!」

「えっ、あっ…え?」


 三度見した。

 お皿にドーンと乗っているのは、子豚だ。子豚の丸焼きがドーンとお皿に乗ってるのだ。


「あれ、先生豚って嫌いでしたっけ?」

「いや、嫌いじゃないけど…うん…」

「とりあえず食べてみてください、ホラ」


 お皿に切り分けられた身を置かれて、おそるおそる口に運ぶ。


「〜…!」


 言葉にならない美味しさだった。

 皮は炭火でこんがり焼いたというだけあってパリパリ。

 中身は柔らかくて、噛むたびにめちゃめちゃ肉汁が出る。

 鼻を抜けるのはニンニクと…なんか不思議な調味料の香りだ。落花生油というらしい。


「身だけで食べるのも美味しいんですけど、こんな食べ方もあるんですよ」


 そう言って俊杰がしたのは、別の皿に用意してあったざらめを皮に塗って、薄切りのパンに肉を乗せて食べるというものだった。


 美味しすぎて死にかけた。

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