第53話

「この船は、間も無く香港に到着いたします。繰り返します、この船は間も無く…」


 二泊三日の船旅もあと数分で終わりだ。

 俊杰チンチエと喋ったり、美味しい料理に舌鼓を打ったりしているうちにあっという間に船は進み。


 向こうには香港の街並みが見えている。綺麗な街だな、とお世辞じゃなく思った。


 コンクリート造りの高いビル。看板に連なる東洋語と西洋語。路面電車と2階建てバスが走っている。


 船は大きな汽笛と共に港に着き、僕らも荷物を持って降りた。


 まず思ったのは、綺麗だけど…


「うるさくない?」

「これが通常運転なんで」


 道はガルシアの王都でも滅多にみないレベルでものすごく広いんだけど、その道から溢れんばかりに車が走っている。


 車というのは僕の感覚からするとまだまだ高級品で、実際ガルシアでも馬車の方が多い。


 そんな車が溢れんばかりに走っているんだから、驚きもひとしお。


 車と並行して走っているのは路面電車。カンカンと音を立てて走っている。

その隣を更に走るのはガルシアでもたまに見かける2階建てバスだ。


 クラクションやら汽笛やら人のざわめきやらが混じり合って、とんでもない雑音が常に満ちてる感じだった。


「夜は更に圧巻ですよ。とりあえず昼食を食べに行きましょう、予約してありますので」

「分かった」


 なんだか楽しそうな俊杰について歩く。

 どこをみても5階以上はありそうな高層の建物ばかりで、人も多い。


「一軒家が無いんだね」

「少ない面積に詰め込んで建ててますから」


 人混みをかき分けてすいすい進む俊杰。普段は運転手付きの車があるらしいけど、ここら辺は人が多すぎて車を停めるところが無いそうだ。


 そして俊杰が立ち止まったのは、朱色に金の装飾が美しい、高級感溢れるレストランの前だった。


 黒いチャイナ服のボーイさんがさっとドアを開けて頭を下げる。


歡迎光臨いらっしゃいませ


 俊杰がにこやかに何かを答える。すると中からオーナーらしい大柄の料理人さんが現れた。


「俊杰様、いつもご贔屓にありがとうございます。こちらは?」

「僕がいつもお世話になっている方です。席は?」

「仰せつかったとおり、最高の席をご用意いたしました。こちらへどうぞ」


 中に案内される。高い天井から釣り下がっている赤い行燈あんどんや大理石の床が高級感を増させていた。


「西洋語、話せるんですね」

「ええ、もちろん。少しでも学があればこの街の人間は大抵話せますよ」


 オーナーさんが僕の質問にからからと笑う。気のいい人みたいだ。


「料理は何にします?」

「先生、僕が決めてもいいですか?」

「うん、頼むよ」


 席についてから俊杰がにっこりと笑って、とあるメニューを指差して何かを注文した。


「先生、とにかく広東料理のフルコースを食べてみてください。絶対、虜になりますから」

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