第48話

「よし、これだけあればいいかな」


 王都の三番街にて。

 僕は本屋で漢方や鍼について書かれた東洋の医学書を大量に購入していた。


 他にも何かないかな、と何軒か冷やかしていると、通りの向こうにミーちゃんを見つけた。


 言わずと知れた俊杰チンチエの使い魔だ。白いもふもふした尻尾がわかりやすい。


「俊杰、ミーちゃん」

「あ、先生」


 ミーちゃんの影にいた俊杰がにっこり笑う。


「何でここに?」

「商人として、最新の情報は必ずチェックしないといけませんからね。経済書を買いに来たんです。

 使用人に買いに行かせてもよかったんですが、ミーが散歩したいといって聞かないので、散歩も兼ねて」


 俊杰がミーちゃんの首を撫でると、気持ちよさそうにした。


 それから色々話しながら通りを歩く。ふとイリヤちゃんのことを思い出して二番街に足を向けた。


「そういえば、俊杰はイリヤちゃんって知ってる?」

「プランツの婚約者のメイドでしょう?知ってますよ。リリーシカからまあ、聞いてるので」


 リリーシカ、おつかれ…


「セレナにちゃんと見ててって言われてて。やっぱりあんな美少女だから心配なのかな?」

「…いえ、その逆ですよ」


 どういうこと?と聞こうとした瞬間だったと思う。


「だから、お断りだって言ってますよね?」

「いいじゃん、俺らと遊ぼうぜ」


 噂のイリヤちゃんがイカついおじさんにナンパされていた。


「やめてって言ってるでしょう!怒りますよ」

「おー、こわこわ」


 助けに行かなきゃ、と僕が踏み出したその瞬間、目にも止まらぬ速さでイリヤちゃんが回し蹴りをキメた。


 男はみぞおちを押さえて呻く。


「セレナ様が言ったのは、イリヤさんが危ないという意味ではなく、相手の男が危ないということですよ」

「…身を以て実感したよ」


 っていうか、あの細い身体のどこに筋肉が眠ってるんだろう…?


 自分よりも二倍、いや三倍はありそうな大男を回し蹴りしたイリヤちゃん。


「このアマ、舐めやがって…」

「危ない!」


 みぞおちを押さえていた男が立ち上がってナイフを構え、突進していく。


 僕が飛び出すのと、銃声が鳴るのが同時だった。


「…銃声?」

「…マジで無茶すんのやめろよ、ラルシュ」


 弾はその男が持っていたナイフを綺麗に弾き飛ばしていた。


 こんなに正確に撃てる人間を、僕は1人しか知らない。


「ルシエルくん⁈」

「…おい、オッサン。良かったな、ラルシュが怪我を負う前で」


 もし、ラルシュが怪我でもしてたら、俺殺してたかも。

 言外にそう言われて男の頰がこわばる。声を上げて逃げていった。


「あんな雑魚、相手にもなんねえよ」


 ポキポキと首をならすルシエルくん。周りに人がいないのは匂いで分かっていたという。


「…同感ですね。僕も先生を傷つけられたら殺していたかもしれません」

「お前、話めっちゃ分かるな。俺はルシエル、よろしく」

「俊杰と申します。良かったら先生のガーディアンズに入りませんか?」


 熱い握手を交わす2人。何故か友情が成立していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る