第45話

「大賢者様は恥ずかしいから、ラルシュでいいよ」

「じゃあラルシュ様でよろしいですか?」


 イリヤちゃんとセレナとカフェで雑談することになった。


 っていうか、王族とメイドが同じ席について色々大丈夫なのかな?


「我が国にも一応身分制度はありますけど、あくまで形だけなんで。

 皇帝は国の象徴で、実際に政治をしているのは官僚や政治家の方々なんです」

「面白い制度よね、セルゲイ皇国って」

「もちろん護衛や王宮はあるのは変わりませんけど、権力はほとんど無いんですよ」


 そんなことを言いながら紅茶を飲むイリヤちゃん。


「私も普通にヴェロニカ様と休日に街に出たりしますし。ガルシアはお堅いんですよ〜」


 遠慮なくケーキを頬張るイリヤちゃんとセレナに視線が集まる。

 そうか…2人とも美人さんだから僕が侍らせてるように見えるのか…


「は?何言ってるんですか?視線の半分は女じゃないですか」

「イリヤちゃん、ラルシュは両親もいないし田舎育ちだから異様に自分への視線に疎いのよ…」

「苦労したんですね、セレナ様…」


 何かヒソヒソされてて僕は悲しい。


「そういえばイリヤちゃんってすごく西洋語うまいわよね」

「ああ、北欧の学校では必ず三ヶ国語は習うんで」


 北欧の学校の教育基準の高さがよく分かる答えを頂いた。


「ところでイリヤちゃんは何でここに?」

「ヴェロニカ様が家出したんですよ〜、本当に困ってます」


 あーあ、と眉を寄せるイリヤちゃん。


「え、またなの?大変ね、イリヤちゃんも。ガルシアにいるのね?」

「ガルシアへの船の出向記録にヴェロニカ様の名前があったんで、今ちょうど総出で探してます」

「…またって何?そんな家出してるの?」

「あー、ラルシュは知らないわよね」


 セレナがああ、と頷く。


「私とイリヤちゃんが会うのは2年ぶりなんだけど、なんでこんなに仲良いか分かる?」

「そういえばそうだね?なんで?」

「ヴェロニカちゃんね、しょっちゅう家出してはガルシアに来るのよ。その度に各メイドさんが連れ戻しに来るの。今回の担当はイリヤちゃんだったというわけ」

「それはどういう…」


 イリヤちゃんが心の底からため息をついた。


「ヴェロニカ様は、重度のストーカーなんですよ」


 そうか、そういえばプランツとそのヴェロニカ様は婚約者なんだっけ。


「リリーシカ様の」

「…そっちィィィ⁈」


 リリーシカのストーカーは北欧のお姫様らしい。

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