第40話
「私はルシエル様付きの乳母だったんですがね、そりゃあ努力家なお方でした。
けどねえ、馬車で事故に遭われて失明して、次にいらっしゃった方があのプランツ様でしょ。
目も見えるし、自分の使えなかった魔法も使えて剣も使える。
羨ましかったんじゃないんですかねえ。顔を合わせば悪口を言ってたし。
バケツの水をかけたり、公衆の面前で恥をかかせたり…プランツ殿下も苦労したんですわ」
「そんな…」
ううん、この場合は誰も悪くない気がするけど…いや、ルシエルくんが悪いの…か?
「どちらも聡明でお優しい方ですが、なにぶんどうしようもない事で苦労されてるでしょ。
プランツ殿下は家柄のことで、ルシエル殿下は身体のことで…一生変わりませんからねえ、こればかりは」
「家柄のこと?」
プランツが娼婦の子供だって、知ってるんだろうか?
「そりゃあね。バレてないと思ってるのは殿下と陛下ぐらいですよ。私のようなベテランはみんな薄々気づいてますよ。
それでも知らないふりをしてるんです。プランツ殿下とルシエル殿下の血の滲むような努力はみんな知ってますから」
あ、着きましたよ、と続けられて深呼吸をする。ベテランメイドさんは一礼して去った行った。
気を取り直してノックをすると、呆れたような声とともにドアが開いた。
「本当に来たのかよ…」
「よく僕だって分かったね」
「来るって言ってただろ」
部屋に置いてあるテーブルに、出来立てのアップルパイがあって笑ってしまう。
なんだ、ルシエルくんも楽しみにしてたんじゃないか。
「僕の好物がアップルパイだって知ってたの?」
「…別に。
桜綾と知り合いなの?と聞くと頷かれた。
「桜綾は俺の師匠なんだ」
「え…ってことは、ルシエルくんは
驚いて思わず声を上げる。
桜綾は学術学院生ながら、東洋では名の知れた軍人一族の三女。
思うような点数じゃなかった時は拳銃をぶっ放すという悪癖があり、風紀委員だった僕は何度反省文を手伝ったか知れない。
桜綾は、何メートル先でも狙ったところに弾を当てられる、天才ガンマンだったのだ。
「ああ、見てろよ」
ルシエルくんが壁にかかっていたピストルを構える。慣れた手つきで弾を入れてセーフティを外した。
「…犬の右目」
「え?」
パンッ、と音がして白い煙が銃口から上がる。
拳銃の先にあった絵画を見て僕は目を見開いた。
絵に描かれた犬の右目に弾がのめり込み、煙を上げていたからだ。
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