第37話

「ん〜…」


 目が覚めたら裸で、隣にセレナが寝ていた。…え?待ってどーゆーこと?


 慌ててベッドから出る。見ると、王宮の一室らしい。私物があるのを見るにセレナの私室だ。


 パニックになりながら洋服を探す。まだアルコールが残っていてフラフラした。

 フォーマルスーツのジャケットはシワにならないようにちゃんとハンガーにかかっていた。


“シャツは洗濯させて頂いています。賢者様の着替えです”というメモ付きの新しい服を見つけて、申し訳ないけど袖を通す。


 何が起こったの?全く記憶がないんだけど、20年ぶりにしちゃったんだろうか。


 用意されていた着替えはシルクのシャツにスラックスで、肌触りが良くて大変着心地がいい。


 髪の毛はワックスでベタベタかと思っていたけどすごくさっぱりしていた。

 いい匂いがする辺り、高級なシャンプーを使ったみたいだ。


 とりあえず洗面所を見つけたのでセレナのブラシとワックスを拝借して髪を2日連続オールバックにする。


 いくらなんでも、王宮でスージーの言うボサボサ髪にする根性はない。


 とにかく状況を知るべく、セレナを起こすのは後にして侍女さんを探そうと外に出た。


 そして後悔した。


「…広い」


 しかもセレナの部屋のある通りはどこも同じような重厚な石造りのドア。

 廊下も同じようなふかふかカーペットに豪華なシャンデリアで、見分けがつかない。


 かかっている絵画を目印にして歩く。窓が無くて外が分からないから、今が何時かも分からない。


 ひょっとして深夜なのだろうか。誰とも会わなくて不安になってくる。


 何分歩いたんだろうか。ガシャーン、という音がした。


「…誰だ⁈誰がそこにいる⁈」


 曲がり角の向こうから声が飛んできた。僕に気づいたのかもしれない。


 角を曲がって、わざとじゃなかったんです、と続けようとして肩がビクついた。


 戦士でもなんでもない僕でも分かるくらい、その青年から“殺気”が出ていたからだ。


 プランツと同じ金髪だけど、その目は…


「もしかして、目が見えないんですか?」


 その青年の目は、瞳であるはずの部分がのだ。

 正確にいうと、瞳であるはずのところに白い膜が張って濁っている。


 そしてその青年は、割れた壺の前に立ち尽くしていた。

さっきの物音の正体は壺が割れる音だったのか。


「ちょっとごめんね」


 この壺を放置していたら危ない。破片で怪我をしてしまうかもしれないし。


 そう考えてその青年の手を引いて、安全なところまで避難させる。

 その青年は裸足だったのだ。


「…お前、何者だ?知らない匂いだ」


 目が見えないということは、匂いで人を判別してるのか。


「ラルシュって言うんだ」

「…チッ、プランツの先生かよ」

「失礼ですが、貴方は…?」

「プランツの、兄だよ」


 その青年は、まさかの第一王子だった。

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