第33話

「ラルシュ⁈やっぱりラルシュなのね!」


 嬉しそうに微笑むセレナ。プランツと同じ金髪碧眼で、絶世の美女だ。


 ガバッと抱きつかれて焦る。そんなに抱きつかれると…その、当たるんだけどな…


「何よ、恥ずかしがってるの?」

「へへ、綺麗になってからビックリして」


 セレナは嘘をつかれるとすごく怒るから、素直に思ったことを言う。


「…か、変わってないわね、ラルシュ」


 怒った顔をするセレナの耳は赤い。セレナがいつも怒った顔をしているのは照れ隠しだと気づいたのはだいぶ後になってからだった。


「ふふ、セレナもね」

「恋人同士の20年越しの再会なのに、他に何かないの?」

「…へ、恋人同士?」


 いや、自然消滅だよね⁈

 だって20年以上音信不通で、しかも僕は黙ってセレナの前からいなくなったんだよ?


「僕たち、別れたんじゃないの?」

「…は?」


 セレナから絶対零度の声がした。


「お馬鹿!私がラルシュと別れるはずないでしょ!20年くらい普通に待ってみせるわよ。結婚もしないでずっと待ってたのよ⁈」

「知らないよ!2年以上音信不通だったら普通、自然消滅したと思うじゃん!」


 む、と眉を寄せてセレナが扇子を開く。セレナもフォーマルドレスを着ていた。

 ドレープの入ったマーメイドラインのロングドレス。

 黒レースのボレロがワインレッドのドレスによく映えている。


「ラルシュは私の気持ちを考えたことないの?女神とか言われて祭り上げられて、彼氏とは20年以上会えなくて、しかも独身だから色々言われるし…」

「うわあ…お疲れ様」


 つい子供たちを育てていた調子でセレナを撫でてしまう。


「なっ、ななな何するのよ!」

「え、ごめん…」


 全力で拒否されてちょっと落ち込む。


「でも私、プランツから聞いてるのよ?女っ気が全くなかったそうじゃない?」


 ニヤリと猫のように笑ったセレナにジリジリと距離を詰められ始めた。


「私のことが、忘れられなかったんじゃないの…?」


 色っぽい雰囲気を出されて後ずさりした。なんか凄い艶っぽいんだけど、え、どうしよう⁈


 後ろに行きすぎて背中が壁にあたる。155くらいのセレナは175ある僕よりだいぶ頭が低いんだけど、明らかにセレナが優位だ。


 僕を上目遣いに見て、ペロリと唇を舐めるのを見た瞬間、僕の中で何かが弾ける。


 僕だって男だ。セレナにリードをとられてたまるか!


 腰をぐっと引き寄せて、口付けようとしたまさにその時。


「先生、入るわよ〜」


 レイアの声が無慈悲に響いた。

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