第32話

 どの文章にも僕を褒める文が出てくる。

 聞けば、勇者物語やプランツの自伝では更に僕のことが褒め称えられているらしい。

 聖書では流石に、聖女のことより他人の事を書くのは憚られたそうだ。


 …いや、レイアの名前の割合と同じくらい、僕の名前出てきてるんだけど…


 なんなら3つの物語は今度教科書に載るのも決まったそうだ。

 …僕と3人の写真付きで。


 ダメだ、絶対に辞めさせないと…!

 そう決意して、着いたと声をかけられて馬車を降りる。


 再び固まった。


「ねえ、僕の目がおかしくなかったらここ、王城だよね?」


 ガルシア王宮の中に手を引かれて、思わず使いの人に聞く。


「はい。聖女様や王太子殿下をはじめとした、次世代の国を担う方々が多い年だけ、特別に王宮で成人式を行うのです。

 王宮で成人式を行うのは85年ぶりでしょうか…」


 んんん?次世代の国を担う方々?


「そ、その今日成人式をするメンバーって…」

「魔王軍との戦いで勝利を重ね、功績を挙げた“戦乙女”のリリーシカ様。

 同じく魔王軍との戦いで指揮をとった、Sランク冒険者の“勇者”ル・ルー様。

 名君主と名高く、支持率96%を誇る王太子殿下、プランツ様。

 身分の分け隔てなく接し、次期法王の呼び声高い“聖女”レイア様。

 世界を渡る新進気鋭の大商会、麗孝リキョウ商会の若きオーナー、俊杰チンチエ様と伺っております」


 え?僕の教え子たちそんな出世してるの?


「そしてその方々がどうしても賢者様に出席して欲しいと…」

「僕は普通だからね?普通だからね?!」


 とはいえ、もう王城に入っている。今更駄々を捏ねてもどうにもならないことはよく分かってるし。


 腹を括って王城へ足を踏み入れた。


「おお…」


 さすがというか、豪華なシャンデリアに内装、調度品ひとつとっても煌びやかだ。


 しばらく使いの人たちは歩いて、大きな木彫りのドアの前で止まると頭を下げた。


「式まではこちらの部屋でお待ちください、賢者様」


 賢者様…


「時間になったら使いの者が参りますので」


 それだけ言うと慌ただしく使いの人たちが去っていく。

 まあでもそうかあ、忙しいよね。


 僕が待つ部屋もすごく豪華だった。

 王城のテラスからはガルシア王国の王都が一望できる。


 煉瓦造りの家々がひとつの絵画みたいに建ち並んでいた。


 スーツをシワにならないよう、近くにあったハンガーにかけていると、トントンとドアがノックされる。


「はい」


 誰だろう?


「ラルシュ?」


 ドアを開けた僕は呆然とした。

 そこには、僕の想像よりもずっと綺麗になったかつての恋人、セレナが立っていたからだ。

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