第31話
それにしたって、馬車でどうやって山道を来たんだろう?
その疑問はすぐに解決した。この馬車、飛ぶのだ。
「うわっ!」
浮遊感を感じたと思ったら、僕の家は遥か下にあった。
運転が安定したのを見計らって、御者さんにおそるおそる大賢者様と呼ばれる
「そりゃ、“勇者物語”と聖女様の誕生秘話、王太子殿下の自伝に同じ人物が出てきたとなれば、騒ぎになるのも当然ですよ」
「ゆ、勇者…?」
「Sランク冒険者として圧倒的な実力をもち、魔王を討伐して人類を救った英雄のル・ルー様ですよ。
端正で爽やかなお顔立ちからは想像もできない威力の攻撃魔法をポンポンと放ち、魔王に苦しんでいた人々の顔が明るくなっていくのを私はこの目で見たんです!」
ル・ルーが勇者…?ナイナイ、あのお猿さんが?
「聖女様というのは?」
「あの美しいお顔立ち!天使のような優しさで国民を包み、慈愛ですべての人々を救う、聖女にふさわしいレイア様ですよ!
戦場に舞い降りた天使のごとく、魔王との戦いで傷ついた人々を、貴族庶民関係なく癒してくださった。
優しい笑みを浮かべて労ってくださったのです…!」
レイアが聖女かあ。これはプランツから聞いてたから驚かないや。
「人気のあまりに、銀貨のお顔になるほどですよ。レイア様の誕生秘話は聖書にも載っています」
「王太子殿下もすごいんですよ!」
隣にいた違う御者さんが話に参加してきた。
「稀代の英傑と名高く、魔法と剣の才能にも恵まれ、それに…先代の国王陛下たちと違って、国民の言葉に耳を傾けてくださいます」
「それに好きな食べ物がクリームシチュー!いい意味で庶民臭い方ですよ。孤児院も増やしてくださるし、税金も減らしてくださる。貴族のパーティーではなく、教育や生活保護に予算を使ってくださいます」
庶民臭い…。クリームシチュー、美味しいのになあ。
教え子が褒められた悪い気分はしないけど、やっぱりさっきの大賢者発言が気になるわけで。
「それでどうして僕が大賢者になるの?」
「3つの本、どれにも全て、“今の自分があるのは私たちの恩師、ラルシュ先生のおかげに過ぎない。彼は私たちを慈しみ、愛してくれた、最高の教師である”の文があるんですよ。
まあ実物を読んでください。国民は誰でも胸ポケットに聖書入れてますから」
御者さんから受け取った聖書を開いて、聖女の誕生秘話の部分を読む。
…結論から言うと、恥ずかしすぎて死にたくなった。
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