成人編

第30話

 春は始まりの季節だ。そういえば、5人を拾った日も、春の最中だったなあ。


 今日は成人式。5人も今日で18歳、立派な大人になる。

 感慨深いものを覚えながら、永らく箪笥の肥やしになっていたフォーマルスーツに身を通す。


 成人式に僕は血縁関係がないし、養子にしたわけでもないから出席できない。


 だから家で軽くするパーティーに行けばいいのかな、と思っていたんだけど。


 それを俊杰チンチエに手紙で言ったら、フォーマルスーツで来るようにキツく言われてしまった。


「どう?スージー」

「…!モテます!マスター、これは絶対モテますよ!」

「そうかな?」


 パリッとした黒シャツに青いネクタイ、ベスト、黒いジャケット。

 胸ポケットからは折り目正しいハンカチがのぞいている。


 髪の毛はワックスでオールバックに固めて、靴は革靴だ。


「マスターって…足、長かったんですね」

「ひどくない?」


 さりげなくディスってくるスージーに突っ込む。


「だって毎日着物にボサボサの髪の毛だったじゃないですか。

 顔は子犬系でまあイケメンでしたけど、ここまで変わると思いませんて」


 褒められてるのか貶されてるのか。というか、ボサボサ…地毛はストレートだよ?


「成人式にはどうやって行くんですか?」

「なんかプランツには家で待っててって言われた。スージーも休んでいいよ。王都にはしばらく泊まるつもりだから」

「ああ、久しぶりですもんね」

「観光も兼ねて旅行したくて。貯金してきた甲斐があったよ」


 そんな話をしているうちに、ドアの方からノックの音がした。


「来たみたいですね」

「うん。行ってきます、スージー」


 ガチャ。ドアを開ける。

 …パタン。無言でドアを閉める。


「…見間違い?」

「ラルシュ様、お迎えにあがりました!」


 見間違いじゃなかったァァ!

 だってさ、豪華絢爛な王族が乗るような馬車が待機してるんだよ?

 迎えの人が5人くらいいたんだよ?普通見間違いだと思うじゃん!


「あ、あの…そんな豪華な馬車じゃなくて構わないんですけど」

「なにを仰いますか、大賢者様!」

「…大賢者様?」


 なにそれ?

 聞き返すと、御者の人たちが目をキラキラさせて説明してくれた。


「戦乙女様や聖女様、勇者様、現王太子殿下の恩師にあたる天才でいらっしゃるじゃありませんか!」

「ゆ、勇者様…?」

「国民は皆、ラルシュ様のことを“大賢者様”と呼び、一度そのお姿を見たいと一同待っているのです!さあ、参りましょう!」


 なにが起きてるのかワカラナイ。僕は意識を彼方に飛ばしながら、とりあえず馬車に乗り込んだ。

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