第29話

「教育に予算をあてるために、それこそ死ぬ気で勉強したよ。

 まあ、王太子になったらちょっとホッとして、朝帰りとかしちゃってんだけどさ」

「ダメじゃん」


 僕がそう突っ込むと、ハハハという軽い笑い声が起こる。


「だから、さ。今度出る本に先生のこと書いていい?」

「僕のこと?」

「そうそう。俺とル・ルー、レイアについて今度本が出るんだ。俊杰チンチエの商会が売るんだぜ」

「うーん…」


 あんまり世間に注目されたくないんだけどなあ。のんびり生きてきたし…


「ル・ルーに至っては先生のこと書かないと本出させないとか言っててさ。頼むよ、そしたら俊杰の商会が大赤字になっちゃうんだ」

「仕方ないなあ。俊杰のためだもの」

「よっしゃ!」


 ガッツポーズをするプランツ。


「言ったな?先生」

「まって、やっぱり嫌な予感が…」

「おやすみ〜!」


 急にご機嫌になったプランツが目を閉じて横になる。


 その時のプランツの真意を知るのは、だいぶ後になってからだった。



 翌朝。

 スージーが今日は休んでいるので、僕が朝ごはんを作る。


「おはよう、2人とも」

「おはよう…」

「…」


 目をこするリリーシカと、相変わらずの寝起きの悪さで半分寝ているプランツ。


 が、食卓に並べられた朝ごはんを見てプランツが目を輝かせた。


「クリームシチューじゃん!」

「ふふん。1時間煮込みました」


 冬も深まってきたので、体を温めるべく、僕が作ったのはクリームシチュー。


 カリフラワーやウィンナー、玉ねぎやニンジンをミルクを入れてコトコトと煮込む。


 クリームシチューはプランツの大好物だしね。


「いただきます!…熱ッ!柔らか、美味い!」

「うん、落ち着いて食べようね」


 王太子だから、さすがにテーブルマナーはちゃんとしているけど、次から次へと食材を突っ込むプランツ。


「そういえば護衛って、リリーシカ1人だけなの?」

「うむ。ぶっちゃけ、プランツの方が護衛より強くてな。プランツと唯一同等の力を持っていたのが私だったというわけだ」


 ふー、ふー、とスプーンに息を吹きかけながらリリーシカが答える。


「ん?ニンジンがハート型だ」

「へへ、可愛いでしょ」


 そう言って微笑むと、oh…と呟いてリリーシカが空を見上げる。


「とうとい…」

「だろ?」

「私より女子力高いぞ、先生」


 そう言ったところで、再び電話の音が鳴る。プランツはしばらく何やらを話した後、ズーンと暗い顔でこちらを向いた。


「急な公務が入ったから、朝ごはん食べたら帰んねえと…」

「っていうことは私もか。王立騎士団において、有給なんてあってないようなものだ…」


 2人してジメジメし始めたので、デコピンする。


「こら、そんな顔しない。国民のために働くんでしょ?頑張りなさい」

「「頑張ります」」


 2人は朝ごはんを食べると勢いよく帰っていった。

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