第28話
「リリーシカ様、お風呂が沸きました。ところでマスター、ちょっと来てください」
お風呂を沸かしに行っていたスージーに呼ばれ、説教を一回中断する。
リリーシカはお風呂へ入りに、プランツはパジャマへ着替えに書斎を出て行った。
「王太子殿下に拳骨なんて、何してるんですか!不敬罪で捕らえられても文句言えませんよ⁈」
「だからと言って、周りの大人が放置するわけにはいかないでしょう。悪いことは悪い、以上」
「…」
無言で胃薬を飲み始めたスージーはすっかり苦労人枠だ。
「あ、あと私、戦乙女様の大ファンなんで、ちょっと恐れ多くて近づけないので、明日は休ませてください」
「…ん?」
じゃ、そういう事なんで、と言って去っていくスージー。
リリーシカってそんな人気なの?スージーのウットリした表情なんて初めて見たんだけど…
「先生、着替えたんだけどベッドでもう寝てていい?」
「あ、うん。先に寝てていいよ」
パジャマ姿になったプランツを見やり、しばらくしてお風呂から上がったリリーシカを書斎に敷いた布団まで案内する。
夜も深まり、僕もそろそろ寝るかとベッドに向かうと、プランツはまだ起きていた。
「寝ないの?」
「先生と会うのが久しぶりすぎて、寝んの勿体無いなと思ってさ」
嬉しいことを言ってくれる教え子だと思う。僕もベッドに入り、久しぶりに夜更かしするかとプランツと喋ることにした。
話しているうちに王宮へ行ったばかりの時のプランツの話になった。
「俺さ、王宮のふかふかのベッドより、森の近くの小さな家の硬い二段ベッドの方がよく寝れたんだ。
最初の1年くらいは、毎日先生とアイツらのことを思い出して泣いててさ」
真面目な顔になったプランツが、フッと顔に影を帯びた。
「何回も脱走して帰ろうかと思ったんだ。母上も兄貴も感じ悪いし。だけど、ここで帰っても絶対先生は歓迎してくれないと思って」
「当たり前だよ。プランツには孤児を減らすっていう夢があるんでしょ」
夢を捨てたら、僕みたいになっちゃうよ。
そう続けようかと思ったけれど、口を閉じた。
僕は宮廷学者になりたかった。王宮でもっと色々勉強したかった。白いローブを着たかった。
身体の弱いホストマザーとホストファザーに、夢を捨ててでも孝行したくてグリンジの里へ帰ったけれど、それでも時々思うことがある。
もし、宮廷学者になっていたらどうやっていたんだろう、って。
王宮に未練タラタラで、セレナという恋人も捨てて、田舎へ帰った僕みたいにプランツにはなって欲しくなかったんだ。
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