第22話

「馴れ初めとか聞いてもよろしいですか?」

「僕ね、孤児でホストファミリーと田舎で暮らしてたから、王族とか全然知らなくて。

 それで学校に入学したら可愛い女の子がいつもひとりぼっちで居たからさ。

 それで話しかけたらセレナ様だったんだよね」


 懐かしいなあ、もう24年前になるのかあ。セレナの顔は今でも思い出せるんだよね。


 いかにもお姫様!って感じのキラキラ美少女だったし。


「すごくワガママで、いつもヒステリー起こしてて。テストの点も悪くて補習の常連で、それに友達もいないみたいでさ」

「国中で“女神”と名高いセレナ様の学生時代がそんな…意外ですね」


 それで僕が怒ったのだ。

 こんなの食べられない、とゴミ箱に捨てられた食事を作るのに、どれだけの労力と時間が割かれているのか知っているのか。

 こんなの要らない、と放り投げられた本を読みたくても読めない人間がいるのを知っているのか。


「サボるなとか食事を残すなとか、当たり前のことしか言わなかったよ。

 もう12になって、中等科に入学した王女様がワガママ放題の馬鹿だったら国が困るでしょ?」

「王女様にそんな事よく出来ましたね…」

「首席入学の特待生っていうバックアップがあったから、学校側も何も言えないしね。

 王家にはよく思われてなかったかもしれないけど、大した影響もないし」


 マスターらしいですね、と頷くスージー。不本意だなあ…


「どうして別れたんです?」

「僕は宮廷学者に就職せずに、ホストマザーとホストファザーがいたグリンジの里に引っ込んだんだ。

 セレナは王女だから王都に留まって、まあだから自然消滅だね」

「自然消滅?でも、セレナ様はたしか、まだ独身ですよね?」


 もしかして、まだ別れてないと思っているのでは?と言うスージー。


「ないない、セレナはモテてたし。僕も数ある恋人の1人だったんじゃないかなあ」

「うーん、女のカンがそう告げてたんですけどねー」


 スージー、疲れてるのかなあ。今日はキャラ崩壊が甚だしいし。


「もう休もうよ。今日は客人も来て疲れたでしょ」

「そうですね」


 僕もさっぱりするべくシャワーを浴びて、昼の残り物とあり合わせで夕食を済ませる。


 食後にコーヒーを飲みつつ本を読んでいると、噂をすればセレナとの学生時代の写真が出てきた。


 紺色の髪の毛にタレ目、制服にベスト。代わり映えしない模範的な着こなしの僕。

 対照的に隣にいるセレナの顔立ちははっきりしていて華やかだ。

 薄く施されたメイクに、写真越しでも伝わるキラキラ感。

 短く折ったスカートに編み込みヘアー。よく見たらプランツに似ている気もする。


 今から考えればセレナはプランツの親戚だから、顔が似ているのは当たり前なんだけどね。


 プランツと同じ蜂蜜色の金髪に青い瞳が綺麗だ。今のセレナはどうなってるんだろう…


 まだ胸に残るトキメキと未練に、女々しいなあと自嘲した。

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