第16話
レーナちゃんは以来、とても東洋の学問に興味を持ったらしい。
「先生、折り入ってお願いがあるです!」
折り入って…だいぶレーナちゃんも語彙力が増えたなあ。先生は嬉しい。
「どうしたの?」
「私、東の大陸にすごく興味があるです。留学したいです。けど…旅費もないし、学校へ行くお金もないです」
「お金と、東洋の学校へのコネが欲しいって事かあ…うーん…」
気は向かないけど、学生時代の東洋人の友達に連絡とってみるかなあ。
それか俊杰の師匠の王さん…は、もう歳も歳だし病気がちだって仰ってたよね。
「とりあえず、連絡は取ってみるよ。でもまず、山を出て街を見てみなさい。
社会というものを知らないと、異国へ行ったところで成功しないよ」
それにまだレーナちゃんは10歳。もうすぐ11になるばかりの少女なのだ。
俊杰みたいに信用できる人に預けるならまだしも、1人で異国に行かせるわけにはいかないのだ。
厳しいことを言うようだけれど、森の中で暮らし、社会を知らないレーナちゃんが今留学して何を得るのだろうか。
「…先生、私に協力してくれるんじゃないですか?」
「だから、それにはまず社会をしらないと。同年代と話したことが一回でもあるの?」
いつになく真剣な顔をするとレーナちゃんは口を結んで黙ってしまう。
「知識はあるんだから、まず世間を知らないと。買い物もしたことない、同年代と話したこともない。
山から出たこともない今のレーナちゃんをおいそれと旅立たせられないよ」
「もういい、先生のバカっ!」
涙目になったレーナちゃんがバタバタと音を立てて出て行ってしまう。
「…マスター、レーナ殿はまだ幼いのですよ」
「…」
「確かにレーナ殿は世間知らずです。街を見たこともないし、山を出たこともない。
そんな彼女が、初めて海の外の世界を見て、憧れるなと言うのが無理な話です」
「スージー、あの…」
「確かにマスターは正しいです。レーナ殿の方が無茶なことを言っています。
学費だってタダじゃないし、今のままだと人間関係でトラブルを起こすのは確実でしょう」
ですが、と続けてスージーはレーナちゃんが飛び出していったドアの方向を見た。
「それを教えてあげるのが教師の役目ではないのですか。正論を教えるのは誰にでもできることです。
それを理解させるのが、教師なのではないのですか⁈」
スージーが真っ直ぐに僕を見つめてくる。意気地なしの僕は、何も言い返せずに黙り込んだ。
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