第12話

「えっと、私はレーナです。10歳です。あの、エルフです」

「見たら分かるよ。ふふ、懐かしいな。僕にもそれくらいの教え子がいたんだよ。

 今着てる服ね、“キモノ”っていうらしいんだけど。

 レーナちゃんと同い年だった時に旅立った教え子がプレゼントしてくれたものなんだ」


 10歳のレーナちゃんか。つい、同い年で旅立った俊杰チンチエの小さな後ろ姿を思い出す。


 もう6年会っていないけど、今でも手紙のやり取りはよくしているし、今着ている僕の髪とお揃いの紺色の着流しも俊杰がくれた物なのだ。


「すごく素敵なお服です!」

「ありがとう」


 そう言って僕が微笑むと、ほのぼのとした雰囲気が流れた。

 スージーが「それはさておき、」と話を切る。


「どのような御用でレーナ殿はここへ?」

「食べ物…恵んでいただきたいです。私お腹空いてるです!全然食べてないです!洋服もボロボロです…」


 頭を下げるレーナちゃんにどうしよう、とスージーを見る。

 助けてあげたいのは山々だけど、僕だって別に豊かなわけじゃない。

 何回も来られても困るし、僕だっていつどうなるか分からないのだ。


「うーんと、家族の人たちは?」

「お母さんは病気です。お父さんは出稼ぎです」

「…スージー」

「まったく、マスターはお人好しですね」


 スージーが台所へ消えると、レーナちゃんの顔はパアッと輝いた。


「ありがとうです!」

「代わりにレーナちゃんに一つ条件があります」

「条件?」


 首をかしげるレーナちゃん。


「レーナちゃんは読み書きや四則計算はできる?」

「?いいえ」

「なら僕から習いなさい。食べ物はあげるから」

「お勉強なんて全然役に立たないです!魔法ですよ!」


 そういえば、エルフは魔力がすごく高い種族なんだっけ。


「でも現実、明日の食べ物にも困ってるよね?」

「うっ」


 痛いところを突かれた、と顔をこわばらせるレーナちゃん。


「基礎的な学力さえ身につけておけば、それだけ職業選択の幅は広がるから」

「しょくぎょ…?」

「とにかく、今度からお腹が空いたらここに来て、勉強すること。いいね?」


 はーい、と渋々顔でレーナちゃんが同意したところでスージーがけんちん汁を鍋ごと持ってきた。


 ものすごい勢いで鍋を空にして、満足そうにするレーナちゃんの肩をしっかり掴む。


「さ、お勉強しようか?」

「…はーい」


 書斎のソファーに座らせて、簡単な本を一冊読ませてみる。

 どれくらい読み書きができるか見るためだ。


「…」

「1文字も読めない?」


 けろっとした顔で頷くレーナちゃんに、僕は頭を抱えた。

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