第10話
レイアとル・ルーがすん、と真顔になる。
「…本気なの?先生」
「俺たち、もし先生が死ぬようなことがあれば…」
「「山ごと潰しちゃうよ?」」
目が本気だ。怖い、教え子が怖い…!っていうか、この子達こんな僕至上主義だっけ?
「大丈夫、魔道具があるから」
「…」
静かになるのやめない?現代技術舐めるのやめようよ!
魔道具って凄いんだからね?と言うと揃ってため息を吐かれた。なんで?
「ル・ルー、私は
「俺はリリーシカだな。くっそ、プランツはなんで王族なんだ…!」
ご飯をかきこんだらそそくさと退散する2人。…ん?
「2人とも、食べ終わった食器は流しまで持っていきなさい。お茶碗は水につけておかないと硬くなるでしょ!」
「…なんでこういう所は気づくのかなー」
渋々といった顔で片付けるル・ルーと、しまったという顔で片付けるレイア。
うんうん、いつかひとり立ちした時にきっと役に立つね。
…そして、レイアがひとり立ちする時もやってきた。
シスターとして、15になり、美しい女の子になったレイア。
背中に天使の羽が見える。僕の教え子が天使すぎてつらい。
「先生、レイア。どう?この服?」
「ル・ルー!」
冒険者らしい軽やかな服装に、腰に短剣を下げ、革のブーツを履いたル・ルーが現れた。
元々ハンサムな教え子だったけど、雰囲気も爽やかで、何というか…
「あの猿ガキが成長したなあ…」
「先生、俺のことなんだと思ってんの?」
いつものやり取り。僕がからかい、ル・ルーが突っ込む。
それも今日限りだ。2人が出発したら僕も汽車に乗ってログウェル山へ向かう。
魔道具や家も全て買い揃えたし、「何かあったら言うように」とクドイほど教え子たちに言い聞かされてる。
リリーシカは長期休みのたびに帰省してきていたけど、今年で学院も卒業だし、ちょうど良かったかも。
卒業式だけ出たいけど、血縁関係のない僕たちは出席できないしね。
でも前に帰省してきた時、王立騎士団への入団が決まったと言っていたし、もう僕はやることもないんだろう。
「じゃあ、元気でやりなよ。ル・ルー、レイア」
「先生もね。リリーシカに会ったら声かけておくわ」
「早くプランツに会ってぶっ飛ばしたいなー」
「コラッ!」
最後の最後まで過激なル・ルーに最後の拳骨をおとし…
教え子2人はグリンジの里を出ていった。レイアもル・ルーも王都へ向かう馬車に乗るからだ。
僕は汽車に乗るから、1番近くの駅に向かう。つまりは反対方向。
「先生の幸せをいつまでも願ってるわ」
「なんかされたら俺がぶっ飛ばすぜ!」
それだけ言って2人の乗った馬車は走り出した。
その馬車が見えなくなった瞬間、この15年は本当に幸せな時間だったと実感して、涙が出てくる。
よくレイアが迷子になったこと。リリーシカが近所の男の子と喧嘩して怪我を負わせたこと。
ウィルさんが病気で亡くなったこと。プランツがむずかったこと。
俊杰が定期的にグリルを破壊したこと。ル・ルーが猫を飼いたいと言って聞かなかったこと…
僕は長い間、そこに立ち尽くしていたような気がした。
達成感と寂しさが、グルグルと脳内を巡回していたのだった。
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