第9話

「先生、さっきのクソ豚は誰だ?」

「リリーシカ、女の子なんだからクソ豚とか言うのやめようね」


 物騒なことを言い出したリリーシカを宥めてから、言葉を濁す。


「かつてのライバルというか…まあでも、僕はグレイよりも幸せだと思うよ」

「なんで?」

「立派な教え子たちがいるからさ」


 くしゃくしゃと頭を撫でると、レイアが「髪が崩れるからやめてください〜」と顔を背けた。

 …小さい頃はよくやってたんだけど、反抗期かな…


「先生、大丈夫だよ。レイアのは照れ隠しだぜ?」

「そうなのか」


 ル・ルーのフォローでちょっと回復したので、それからまた王都を散策し、数日ほど滞在してからグリンジの里へ帰った。


 あと2週間もしないうちにリリーシカは学院へ旅立つ。


 先生孝行というか、王立なので元々学費は安いんだけど、なんとリリーシカは特待生になったので学費はタダ。

 その代わり、在学中はトップクラスの成績を維持しなきゃいけないらしい。

 まあリリーシカなら大丈夫だろう。王立騎士団に入るという目標があるわけだし。



 入寮の日、目をキラキラさせてまっすぐ旅立っていたリリーシカを、僕は眩しいものを見るように見つめた。

 教え子が頑張ってるんだから、僕も頑張らないとなあ。


 そうだ、教え子たちが全員旅立ったら、山奥に篭ろうかな?

 昔の学者がよくしていた修行に、山奥に書物だけ持って篭り、学者として精進するというものがある。


 僕はそれをしようと考えた。教え子たちを育てて12年。

 三十路みそじを過ぎた僕はもう結婚をする気力もないし、教え子の成長だけが楽しみだ。


 そうと決めたらすぐ行動しよう。


 険しくて魔物が多く、少々危険だけど修行にピッタリな山がある。


 ログウェル山だ。険しいし危険なので建物ひとつ建てるのもとても時間がかかるけど、今からだったら丁度いいだろう。

 レイアとル・ルーがウィルさんのところへ行ったのを見計らって、僕は山専門の建築業者さんにログウェル山に小屋を建てて欲しいとお願いした。


 食事や日用品は問題ない。少し高いが、強い魔力結界を張る魔道具や、料理を作ってくれる人形ドールが専門店では販売されているのだ。

 元々首席で卒業するくらいだから学者としては有能な方で、3人いなくなったからお金にも余裕がある。


 オーダーメイドの人形専門店に予約を入れると、その日の夕食でレイアとル・ルーに山に籠るつもりなことを話した。

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