第8話

 予想はしていたが、リリーシカが王立武術学院に合格した。

 …首席で。


「入学試験、簡単すぎるぞ。私、教官を負かしてしまった。本当に最高峰の学校なのか、先生?」

「…多分」


 赤毛のポニーテールをほどきながらそう言う、クール系美人に育った教え子。

 僕は曖昧に頷いてお茶を濁した。


 数日後に届いた制服はリリーシカの好みだったらしい。

 1番に先生に見せるって決めてたんだ、と嬉しいことを言ってくれるリリーシカ。


 こんなリリーシカにもいつか反抗期が来るのかな…あ、その時は全寮制だから学校の寮にいるか。


「王立学院は4つしかないんだな。武術学院、学術学院、魔術学院、実業学院。先生はエリートなのか」

「昔の話だけどね」


 4つの学校の制服は色違いだ。学術学院は青、武術学院は赤、魔術学院は白、実業学院は緑。

 ちなみに、魔術学院は魔法使い、実業学院は商人を育てる学校。


 リリーシカに一度王都を見てみたいとねだられ、いい機会なのでレイアとル・ルーも連れて王都を見て回った。

 レイアは教会、ル・ルーはギルドを見て目をキラキラさせていた。憧れの場所だもんね。


 クレープを買って食べ歩きをしながら町の人々の話を聞くと、嬉しいことがわかった。


「今の王子であるプランツ殿下は、稀に見る英傑らしいぞ」

「3ヶ国語を操り、とんでもねえ政治の才能を持ってる希代の国王にふさわしい人間なんだと」

「第一王子よりプランツ殿下の方が王に相応しいわよねえ」


 どうやらプランツは頑張っているらしい。いいことだ。

 途中の大通りで見かけた王立騎士団のパレードを、リリーシカは目を輝かせて見上げていた。


「先生、私ここで働く!決めた!」


 珍しいリリーシカの素直な笑顔に僕もほころぶ。




 その瞬間だった。


「ラルシュ?」



 背中から、最も会いたくなかった…かつての同級生の声が聞こえたのは。


「久しぶりだね、グレイ」


 僕はちゃんと笑えている?


 宮廷学者を表す白いローブを羽織り、肥え太ったグレイはニヤニヤと笑っている。


「本当、お人好しだよなあ、ラルシュは。学術学院を首席で卒業しときながら、おじーさんとおばーさんが心配だから田舎で学者やってんだっけ?おつかれー」

「ははは…」


 グレイがリリーシカとレイアをいやらしい目で見つめる。レイアがリリーシカの背中にとっさに隠れた。


「かっわいい娘だなあー…俺の嫁にしねえ?金ならあるぜ、お前なんかよりずっとな」

「…そうだね。宮廷学者よりは貧しいかな」

「本当、将来美人になるぜえ」


 グレイが相当気持ち悪かったらしい。ル・ルーが鋭い目をしてレイアとリリーシカの前に立った。


「おお、怖い怖い。じゃあなー、お人好しのラルシュくん」


 手を振りながら去って行ったグレイに、さっきまでの温かい気持ちはペシャンコに潰れ、繋いでいたリリーシカとル・ルーの手をぎゅっと握りしめた。

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