第6話

 いつも通り、僕は鈴で5人を起こし、ル・ルー担当の朝ごはんを食べ、そして当たり前のようにその時を迎えた。


 グスグス泣いているのはレイアと俊杰チンチエ。リリーシカはきゅっと口を結び涙を堪え、ル・ルーは下を向いて歯を食いしばっている。


 近衛師団の人たちがプランツを連れて行く。プランツは振り向かず、背筋を伸ばして馬車に乗り、そして見えなくなった。


「先生、ハンカチどうぞ」

「え?」


 気がついたら、僕の目尻にも涙があった。レイアからハンカチを受け取って拭うと、まず立ち上がったのはリリーシカだ。


「私は剣の練習をしてくる。私は立派な騎士となって、プランツにも名前が届くくらい強くなる」

「リリーシカ…」


 僕が感動していると、決意した顔で俊杰が続ける。


「僕は商人になる。いつか王家御用達になって、プランツに会うんだ」


 俊杰の後ろでニッ、と笑いながら腕を組んだのはル・ルーだ。


「俺は冒険者になる。強くなって強くなって、プランツに会ったら1発殴ってやる」

「過激だな…」


 手を合わせておっとりと話すのはレイアだ。グスグスと鼻を鳴らしながらも目は凛とした光をたたえている。


「私は僧侶になるの。修道女シスターになって、プランツが幸せであるようにお願いするのよ」


 ル・ルーと対照的にレイアの願いは優しい。皆んながほっこりした後、「さて、勉強勉強」と僕が声をかけると、やっとみんな動き出した。


 みんな目標をもつと、まるで原石がダイヤに変わるように、どんどん才能が開花し始めていった。



 まず最初に行動したのは俊杰だった。プランツがいなくなって2年。

 10歳になって、美少年ぶりに磨きがかかった俊杰が僕のもとに来たのだ。


「先生、お願いがあるんだけど」

「どうしたの?俊杰」


 書斎で論文を読んでいた僕が俊杰の方を向くと、俊杰は手を床につき額を擦り付けた。


「僕を旅に出してください!」


 俊杰の話はこうだった。

 このグリンジの里に2ヶ月前から滞在している老いた行商人、ワンさんについていきたいというのだ。

 王さんは俊杰と同じ東洋人で、2人は馬が合うらしく、よく一緒にいるのを見かけた。

 王さんからお小遣いで買ったチャイナドレスを俊杰は毎日着ているほどだ。


 その王さんはかなり有名な商人さんらしく、俊杰に商人の才能を見出したので、商人のイロハを叩き込むべく、一緒に旅をしないかと誘われたらしい。


 俊杰としては是非一緒に行き学びたいが、先生から許可が下りるかわからないから、と返事を保留にしていたという。


「…俊杰、」

「はい」

「僕はがっかりだよ。…僕が教え子のやりたいことを優先しないわけないだろ!是非行っておいで。俊杰には広い世界があってるよ」

「先生…」


 涙ぐむ俊杰。頭の揺れに合わせて艶のある黒髪が揺れる。

 腰まで伸びた黒い髪を三つ編みにし、チャイナドレスを着た俊杰は中性的な美少年だ。

 不埒な輩がいるかどうかだけ心配だけど、俊杰には広い世界を見て欲しい。

 そんな思いを込めて僕は微笑み、背中を押した。

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