第5話
「…少し、少し時間をください」
「時間?」
「1日です。1日の猶予をください」
「先生!どういうこと、プランツが行っちゃってもいいの⁈」
涙目で僕を揺さぶるレイアの頭を撫でる。近衛師団の人は「分かりました。1日後に迎えに参ります」と頭を下げて去っていった。
静かになった玄関で、最初に口を開いたのは
「プランツは、王子様なの?」
「そうだよ」
「僕たちとプランツは、あと1日経ったらバイバイなの?」
「…そうだよ」
「嫌!私は認めない!」
リリーシカが泣き出す。ル・ルーの肩も震えていた。
「…よし、5人とも。今日は紅葉狩りに行こうか」
秋も深まった外には、真っ赤な紅葉がひらひらと舞っている。
何で?と不思議そうにしている5人にとりあえず準備をさせ、僕たちは紅葉した山へ入っていった。
美しい紅葉を見ているうちに泣くのはおさまったらしい。
僕は積極的に5人の小さい頃の話をした。特にプランツのことを。
よくむずかる事、近所の人にとても助けてもらったこと。
初めて喋った時のこと、僕の服にインク壺をひっくり返したこと、ル・ルーとプランツはよく喧嘩していたこと…
「でも、僕はそんな時いっつも思うんだ。この子たちの親御さんは、子供の成長を見たかったんだろうなって…」
「…」
それを聞いた5人が黙り込む。僕たちの隣を若い女の子と中年の女性の親子が通り過ぎていった。
「僕はしょせん、5人の“先生”だ。5人のことは本当に大切に思ってる。それは当たり前のことだよ。
でも、親御さんはまた違った意味で大切に思ってるはずなんだ。
子供を産むっていうのは母親が命をかけたもので、そんな子供が可愛くないわけないんだよ」
その日の夜のことだった。
いつものように女子部屋男子部屋に別れ、今日が最後の夜になるプランツも男子部屋に入った…はずだったんだけれど。
「先生、一緒に寝ていい?」
枕を持って現れたプランツ。驚きながら、最後くらい我儘を聞いてあげようとベッドの中に招き入れた。
「あのさ、俺、王子様になることにした」
「そうか…」
正直、心のどこかでずっと一緒にいたいという思いがあった。
でも、教え子はいつか旅立つ。プランツがそう決めたなら自分の私情を出してはいけない。
「それでいつか王様になるんだ。それで、俺みたいな孤児を減らすんだ…孤児院を、もっと建てて、福祉に…ちからを、いれて…」
言いながらだんだん瞼がトロンとしてきたプランツに、僕の口角がゆるむ。
「うん。プランツはきっと、いい王様になるよ」
「ふふ…ありがと、せんせ…」
おやすみなさい、プランツ。先生は、プランツの成長を遠くから願ってるからね。
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