第3話

 僕の朝は早い。5人と住むにあたって引っ越した、森に近い3LDKには6時になると鈴が響く。


「皆んな〜、起きなさい。朝ごはんだよ〜」


 リリーシカだけが既に起きて剣の素振りをしているけど、他の4人はお寝坊さんだ。

 僕は寝室から出るとまず女子部屋を覗く。二段ベッドの上でスヤスヤ眠るレイアの耳元で鈴を鳴らすと、ようやく起きて来た。


 男子部屋に入ると、眠りの浅い俊杰チンチエは既に起きて布団をたたみ始めていた。

 俊杰は東洋人の血か、ベッドより布団の方がいいらしい。

 欠伸をする俊杰を横目に、二段ベッドの下でグースカいびきをかいているル・ルーを起こす。

 ル・ルーは寝相が悪い。下手に優しく起こすと蹴られるので、大きな声でゆさゆさ揺らす。


「ル・ルー、起きなさい」

「んー…あ、おはよう先生」


 ル・ルーがパジャマを脱ぎ始めると、最後の砦のプランツだ。

 プランツはとにかく眠りが深い。お前は猫か、と突っ込みたくなるほどよく眠る。

 プランツは耳元で鈴を鳴らし、揺らし、最終的には俊杰(軽いので怪我しない)に乗ってもらってようやく起きる。


「ごめん先生…あと五分」

「いいですよ…っていうわけないでしょ!」


 ポカリと頭を叩いてようやく体を起こしたプランツにホッとしつつ、庭のリリーシカにも声をかける。


「おはようリリーシカ。精が出るね」

「騎士を目指すものとしては当たり前のこと。もう朝ご飯?」

「うん。シャワーしておいで」


 さて、朝ご飯はどうなっているだろうか。今朝の朝食は俊杰担当だったから東洋風のはずだ。


 台所へ行くと俊杰が既に魚をグリルに入れて焼いているところだった。

 うちの家では毎日1人が朝ご飯を担当し、僕はそのサポートに回る。

 いつか1人で暮らす5人のために、そういう制度にしたのだ。掃除や買い物もしかり。


「あ、先生。きゅうり漬けといたから冷蔵庫から出して」

「嬉しいな。僕、きゅうりの浅漬け大好き」

「残念、今日はぬか漬けです」


 それから玉子焼きやご飯、ほうれん草の胡麻和えを作っているうちに魚が焼けたらしい。

 今日は鯖のホイル焼きだ。プランツが大好きなもの。


「先生、これ運んで」


 お箸やお茶を並べているうちに4人がダイニングに現れた。

 魚が嫌いなル・ルーが露骨に顔をしかめるけど、気にせず食べ始める。


 ル・ルーがレイアのお皿にこっそり魚を移すという事件があったものの、無事朝食は終わり。

 皿洗い担当のリリーシカは台所へ、他の4人はそれぞれの学習へ。

 僕も書斎に行ってガンガン論文を書いて読まないと。養うにはお金がかかるのだ。


 今日も頑張るか、と首と腕を伸ばした瞬間、ドンドンとドアの方で音がした。

 誰かがノッカーでドアを叩いているのだ。ウィルさんかな。それとも近所の子?


「先生、私が出るわ」

「ああレイア、頼むよ」


 ドアの開く音がした瞬間、「きゃっ!」というレイアの悲鳴が聞こえた。


「レイア!何があったんだい?」


 僕も玄関へ向かう。後ろからル・ルーが剣を持って、俊杰がフライパンを、リリーシカが包丁を持って続いた。

 プランツは庭へ行ったので聞こえていないのかな。


「失礼。私たちはガルシア王国近衛師団の者です」


 玄関に立っていたのは、ガルシアの国家紋が入った軍服を着た、大量の騎士だった。

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