第2話

「いやあ、リリーシカには剣の才能がある。アイツはきっと凄い剣士ソードマンになるぞー」


 ウィルさんがビールをあおりながら満足げに頷いた。

 5人は8歳になった。僕にもよく懐いてくれる、可愛い子たちだ。

 赤ん坊の頃はむずかるし5人もいるしで忙しすぎて、今やっと子育てを謳歌している気分。


「レイアの魔法の腕はピカイチだな。攻撃魔法はまあまあだが、聖属性の、それも治癒魔法は現役の治癒士と大して変わらないぞ」


 慈愛に満ちた目にウィルさんが変わると、僕は他の教え子の自慢もしたくなって口を開く。


俊杰チンチエはすごく頭がいいですね。成績もいいんだけど、なんていうかな、すごく頭が回って機転が利くんだ。ひょっとしたら商人向きかもしれない」

「あぁ、この間里に来た行商人も言ってたな。俊杰を弟子にしたいって」

「少ししたら商家に奉公にでもいかせるかなあ…」


 2人でうんうんと頷きあっていると、「アラ、アタシはプランツくんのほうが優秀だと思うね」と酒屋のおばさんが割り込んできた。


「この間店に来た時、机の配置と内装をこういう風に変えた方がいいって言ってくれたんだけどね、そしたら本当に客が増えたんだよ。プランツくんは指導者…というか、人の上に立つ人間だと思うよ。貴族にでも生まれてればいい領主になったね」


 たしかにこの席の配置のほうがいいかもしれない。

 前はきっちり規則正しく並んでいた席が少しごちゃごちゃとしていて、それが逆に酒屋という感じがして親しみやすい。

 心なしか、店内の雰囲気も明るくなってような気がする。


「あァ、でもレイアとは反対に攻撃魔法も剣もできてるのはル・ルーだな。アイツは正義感も強えし、冒険者向きかもな」

「我が教え子たちの未来は明るくて安心ですね」


 未来に乾杯、と4杯目のビールのグラスを合わせた瞬間、「せんせー!」という声が下から聞こえた。


 …ん?下から?


「せんせー、迎えに来たよ!」

「レイア!ル・ルー!」


 魔法が特に長けているという2人が立っている。ツインテールの可愛い方がレイア、爽やかなハンサム少年がル・ルーだ。


「いつ来たんだい?」

「透明になって来たのー!ついさっきだよ」

「透明になる魔法…?」


 そんなの聞いたことも見たこともないが、2人はニコニコと頷いて爆弾発言をした。


「私たちのオリジナル魔法なのー!人間の目の構造は光を反射したものを見ているわけだから、私たちは目が認識しないように光を屈折させる…」


 本当に8歳かと突っ込みたくなるような難しい説明を終えた2人がドヤ顔でピースする。


 オリジナルの魔法?…8歳で?ベテランの魔法使いでもなかなか新しい魔法は作り出せないのに?


「ウィルさん、あの…」

「実は俺も、最近この2人には抜かされる気がしてならねえよ…基礎だけ教えたら勝手に翌日には応用してんだから」


 毎日質問責めにされてるんだ、と遠い目になったウィルさんには、もう一杯ビールを注文することにした。


 何はともあれ、我が教え子たちの未来は明るいらしく、一安心した夜だった。

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