僕の教え子たちが出世しすぎて大賢者扱いされてる件について。

あやなつ。

第1話

「学者様、あの…少し見てもらいたいことがあって」

「見てもらいたいこと?」


 近所の町娘が僕を呼びに来たのは、春も半ばの暖かい日だった。

 書斎でいつものように論文を読んでいた僕は頷いてついていく。


 学者様、といっても王立学術学院を卒業し成人して2年のまだ20歳の若造なんだけどね。


 娘さんが足を止めたのは、このガルシア王国の小さな郊外の町、グリンジの里の入り口付近だった。

 なにやら人だかりができていて、その中心には…


「赤子?」


 5人の赤子が毛布にくるまってバスケットに入れられていた。


「近くに孤児院もないし、誰かが引き取るしかないんですけど、5人もいるしどうしようかと…それでラルシュ様のお知恵を拝借できないかということになって」


 男の子が3人、女の子が2人らしい。男の子は働き手になるからまだしも、孤児の女の子の末路は…


「よくても娼婦でしょうね。最悪、…奴隷商に売るしか…」


 言い淀んだ娘さんの厳しい現実が僕の心に突き刺さる。

 僕も孤児だ。魔法には適性がなかったし剣も使えなかった僕を引き取ってくれた、数年前に死んだ老夫婦には感謝しかない。

 幸い成績が良かったから僕は学術学院に進めて学者になれたけど…もしこの子たちに才能がなかったら…


「…僕が引き取ります」


 僕がバスケットを持って立つと、「いいのかい?」と近所の老婆が聞いてくる。


「ええ。この子たちを育てるときには、僕が先生になって学校でも開きますよ。…でも、魔法と剣は教えられないなあ」

「なら俺がたまに行ってやるさ。先生は親になって学問を教えてやんな」

「ウィルさん…」


 元Aランクの冒険者で、膝を痛め引退し、今はセカンドライフを謳歌しているという、50近いウィルさんが豪快に笑って胸を叩く。


「ありがとうございます、お願いします!」


 かくして、僕は5人の赤子を引き取ることになった。

 年齢は全員1歳半ほどで、スヤスヤと眠っている。赤毛の女の子はリリーシカ、亜麻色の髪の女の子はレイアと名付けられた。

 黒髪の東洋人らしい男の子は俊杰チンチエ、金髪の男の子はプランツ、銀髪の男の子はル・ルーだ。


「これからよろしくね、皆んな」


 そう言ってほっぺをプニプニとつつくと、リリーシカは僕の指を握り、レイアは笑い、俊杰はむずかり、プランツは無視、ル・ルーは寝たままだ。

 様々なリアクションに僕はクスクスと笑いながら、バスケットを持ち家路を急いだ。

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