「発覚アフター!~正義?の怪人奪還大作戦~」

低迷アクション

第1話

発覚アフター!~正義?の怪人奪還大作戦~


 巨大なハサミでは、携帯端末を操作するのは難しい。路地裏を走る悪の怪人“ザリガニーソ”は後方に続く、迷彩服の男達に振り返り、叫ぶ。


「おいっ、軍曹!俺の手じゃ、操作できねぇ。テメ―等で何とかしろ。」


「当たり前だろ?てか、オメー!正体モロだし大丈夫か?」


“軍曹”と呼ばれた先頭の迷彩が負けじと吠え返しながらも、適格な気づかいを見せる。


「この人口減の街じゃぁ、こんな夕暮れ時ですら、うろつく輩はそうそういねぇっ!!

そんな事より、早くしないと“ハク”の野郎が!」


「軍曹、ニーソ、割り込み失礼、場所が特定できました。ここから10分の距離です。」


「よし、急ぐぞ!」


ニーソがハサミを振り上げ、軍曹達が呼応するように足を早め、続いた…



話は30分程前に戻る…


 「実は“正体”バレちゃった…みたい…」


“テヘペロ!”みたいに舌を出し、ちょっと汗!と若干の上目遣いでこちらを見る

“白狼”にザリガニーソ達、残党怪人の会は一様に目を剥いた。


「こんのバカオオカミが!オメーッ、一番、人間型に近いからって、その犬耳、髪型って

誤魔化すの、無理って、アレほど言っただろうがぁっ!」


「わぁああ~ん、ゴメン!ニーソォォ!!」


隠れ家である廃墟で、怒り心頭のザリガニーソと白狼の泣き声が響く。

彼等は特撮、春の番組かい、いや、正義の味方連中との戦いに敗れた悪の組織の生き残りである。


次の出番(映画とかの復活悪の組織等)まで、姿を隠す予定の彼等だったが、一つの問題があった。それは目の前でウルウル涙目、頭ナデナデで、周りの怪人にフォローを入れてもらっている、この白狼だ。


昨今、いや、古今東西、悪の女幹部とか、悪なのに紅一点なキャラがいる。ニーソ達の組織とは違うが、正義のヒロイン達との戦いに負け、こちらに合流した。


普通、彼くらいのビジュアル(犬耳ショタ風な容貌)なら、最終回手前で仲間になったりの展開ありきだが、白狼はそれを選ばなかった。選ばなかったけど、人間の事大好きの未練

ありきでこっそり学校に通ったりしている。


日中は学校に行き(先週まで敵だった女の子達と顔付き合わせて授業している)夜はここに戻るという生活スタイル。正直、先の展望等も含め、ニーソ達としては彼を人間側に行かせ、


隠れ家がバレるというリスクを減らしたいが、白狼が泣いて、それを拒むので、何となく

有耶無耶になっていた。しかし、その結果がこの様…全く…


「で、誰にバレた?」


ため息をつきながら白狼に問いかける。状況によっては、今すぐにでも、

ここを引き払う必要があるかもしれない。


「同じクラスの樫木 舞(かたき まい)さん。僕の耳が昼頃からピョコピョコし始めて、

トイレ行ったら舞さん入ってきて…」


「えっ!?その舞って子、男子トイレ入ってきたの?そっちの方がヤバくね?」


「“前から、目を付けてた”って…反論する間もなく、こんな首輪まで、つけられて“ワンって言ってみぃ”って言われて…」


「ああーっ、なーる…要はあれだろ?デミ(亜人)って事バラされたくなかったら、犬になれってあれね?まぁっ、仕方ないか?」


「仕方なくないよ!」


悲鳴を上げる白狼を尻目に、ニーソは素早く味方の怪人達に無言の確認を送る。誰も頷かない。該当なし…という事は、その舞って子は元変身ヒロインとか正義の味方の身内ではない。


(こちらに害はねぇか…)


素早く判断し、尻尾をプルプル、不安気な白狼に声をかけた。


「まぁ、あれだ。ハク!その舞って子は美人なんだろ?(彼のコク、コクな頷きに言質をとる)そうか、それなら、まぁ、いいじゃん?(白狼が“えっ?”って表情をするけど気にしない)お前も人間好きだろ?そしたら、その美人の女の子に飼われてもいいじゃねぇか?」


「・・・・・」


黙り込む白狼にニーソは言葉を畳みかけるため、思考を深めていく。どのみち、半端はよくねぇ。コイツの今後を思うなら、送り出してやった方がいい。


「飼われるって表現は良くねぇな。あれだ。これを上手いキッカケにして、人間側に溶け込んじまえ。それが一番だよ。お前、人間好きだろ?そしたら、

俺達みたいな悪党と一緒は良くねぇ。非常にな!


よく考えてみろ?漫画でもあるだろ?異形のモンと普通の女の子のラブコメみたいな。

とにかく、そんな感じで楽しんじまいな?」


「・・・・僕達は仲間じゃないの?・・・」


「あっ?」


「・・・・・・・」


踵を返して廃墟を飛び出す白狼…その悲しそうにお尻から下がった尻尾が、ニーソの目に妙に焼き付いた…


 

 「ニーソ、コイツは不味い…非常に不味いな!」


自分達の廃墟と同じくらい、薄汚れたデスクに座る“軍曹”と呼ばれる男がザリガニーソに

辛酸を舐めました面を向けた。彼等は傭兵。戦う戦場も立場も全く違うが、

悪の組織存続以前から付き合いがあった。お互い、お天道様がのさばる日向を歩けない身分…協力する事も多々あった。


白狼が飛び出した後、何か気になったニーソは軍曹を訪ね、白狼を脅迫?(この時点では、ハッキリしていなかった)している少女の身元を照会してもらったのだ。


「不味いって何がだ?いかにも平和な極東の島国だろ?ここ?」


「お前等みたいな、非日常代表がそれを言うか?まぁ、それはともかくとして、

“人外狩り”って知ってるか?」


「人外狩り?」


「こんだけ、異能や異変が闊歩するご時世、それを商売にしようという奴等もいる。俺達、傭兵も似たような仕事を依頼される事もあってな。」


軍曹が手持ちの携帯端末をこちらに投げてよこす。そこには、ニーソ達と同じような怪人達や白狼のような亜人達の情報と値段が記されている。


「お前等も含め、異能的存在がもたらす恩恵は人類にとって、莫大な遺産だ。研究に実験、用途は多様。それ以外にもエロい事する奴隷等々、あらゆる地獄が待っていると言っていい。」


「それと白狼の正体を知った、ねーちゃんの関係は?」


「彼女は激ヤバだ。数年前に、おたく等と違う異能連中に両親を殺されている。

その敵討ちってんなら、同情の余地多いにありきだが、そうじゃない。両親もわざと


殺させたって噂があるくらいの殺人狂だ。それも普通の人間じゃぁ、すぐに死んじまうから、

異能の奴等なら少しは頑丈だろう?って理論で狙うヘンタ…」


「拷問マニアか…クソッタレ…」


軍曹の言葉を遮り、呟く。自身の背筋を寒いモノが走っていく。



「ああ、かなりキテル子だな。考えてみれば、おたく等には人権もねぇ。しかも元は悪の

組織、何をされても自業自得。勿論、守る法律も、味方する奴もいない。」


軍曹の言葉は全て事実。いや、一つだけ違うか?助ける奴はいる。白狼と同じ異能の存在、

悪行にかけては他の追随を許さない…


「俺達か…」


「助けに行くのか?悪の連中ってのは、あれだね?仲間意識が強いな。」


「そうじゃねぇ…」


「素直じゃないな。甲殻類はツンデレか?まぁ、あの、ハクちゃんもそーゆう所が

気に入ってるのかもな。」


「どーゆう意味だ?」


「まれにだけどね?狼の中に白い毛並みのモノが生まれる事がある。

“白狼”は、その毛色の珍しさゆえに、仲間からは忌み嫌われ、

挙句、猟師に希少な獲物として、常に狙われ続けていく。


 そのせいで同族にも嫌われ、死につけ狙われる存在は、常に孤独だ。

生きるために、あてのない戦いを続け“居場所”を求めて、さまようのさ。


そんな境遇のハクちゃんにとって、人間も好きかもしれないけど…

異形の怪人達であるおたく等、自分を珍しいとか、そんなんじゃなく、

仲間として見てくれたニーソ達が嬉しかったんだろうな。」


軍曹の言葉は常に的確。腹正しい。しかし、今は考えている場合じゃない。


「彼女の居場所はわかるか?」


「ああ?一応は…」


「その言葉で確信が持てた。お前、俺達、いやハクを売ったな?」


「あっ・・・・」


軍曹が“しまった”という顔をする。最初からわかっていた。所詮は金儲けで動く傭兵。

信念なんかより、札束の量。さらに言えば…


「俺達は敗残勢力、協力しても、旨味はねぇ。下手すれば、自分達の立場まで危うい。

切り捨てるには満足する報酬をもらったな?」


「それを肯定したとして、どうする?」


ニーソの追及に軍曹が片手を上げる。それを合図に銃を構えた複数の兵士達が自身を取り囲む。


「少しでも悪いと思ってんなら、奪還に協力しろ?仮に俺を倒せても、残党怪人はごまんといる。お前等を一匹残らず叩き潰すぜ?」


「・・・・・わかった・・・」


ニーソの駆け引きは成功したようだ。苦虫を噛み潰した軍曹と部下の兵士達は彼に続くための準備を開始した…



 薄暗い地下室には湿気がじとつき、冷気漂う室内に白狼の耳がピッタリと閉じられていく。いや、寒いのは、何も温度だけでない。体が震える原因はもっと他にあった。


自身は着ている服も破かれ、半裸に剥かれ、両手、両足を鉄の磔台に拘束されている。

体にはいくつもの赤い線が走り、先程まで散々、打ち込まれた鞭の凄惨さを物語っていた。


そして何より…


「ねぇねぇっ、シロちゃん(学校内での彼の呼び名)次は、切断と電気、どっちが良い?」


と狂気にはしゃぐ樫木舞に全身の寒気がいつまでも止まないのだ。


ザリガニーソ達と別れ、指定された場所に向かった白狼は、舞に自身の正体を周囲にバラされないよう一生懸命懇願した。笑顔でそれを聞いた彼女は


「どうでもいいから、とっとと服脱いで四つん這いになろうかぁっ!?」


と言い放ち、目にも止まらぬ速さで自身の首にスタンガンを押し付けられた。

それからずっとこの状態だ。


「あ、でもぉ~つ、切断すると学校は不味いか。しばらくは通わせないと不自然だよね~

よし、電気にしようねぇ~っ」


震えて答えられない白狼を楽しそうに眺めた舞が大型のバッテリーと操作盤を用意し始める。不味い。先程から水に鞭の連続ときて、電気?絶対にヤバい。時間だ。時間を稼ごう。


「あのっ、舞さん!」


「ん?なぁに~シロちゃん?」


「僕達、友達だよねっ!?」


「そうだねぇ~っ?友達だねぇ~っ?」


「じゃぁ、こんな事止めよう!洒落になってないよ。絶対!鞭とか水なら、まだわかる?…

ん~っ!んっ!セーフッ!セーフだから!ふぐっ?ふひゃぁっ?」


大きく開けた口の中に舞が手を突っ込み、舌に電線を取り付けた。そのまま体のあちこちに

電線が取り付けられていく。


怯え、涙を流す白狼の顔を舞が愛おし気に撫でまわし、舐め回しながら、静かに囁く。


「でもねぇ~っ?こればっかりは性分、駄目だねぇっ~。シロちゃんは人間と違って

すぐには壊れないからねぇ~っ?タップリ楽しませてもらうよ~?」


頭を全力で振り、拒否を示す白狼を楽しそうに眺めた舞がスイッチに手をかける。場違いな

呼び鈴が鳴ったのはその時だった…




 「オイッ?軍曹、ホントにこれで上手く行くのか?」


恐らく白狼が監禁されているであろう家の玄関に立ち、軍曹達が呼び鈴を鳴らす事に疑問を隠せないザリガニーソだ。


彼の問いかけに、近くのゴミ捨て場から持ってきたピザの空き箱を持った軍曹が得意そうに説明する。


「大丈夫だ。相手がドアの覗き穴を見たら“ピザの宅配です”って言って、一気に突入。

映画でもやってたからよ!」


直後に、銃声と共にドアが吹き飛ばされ、軍曹達が散らされた。2連装式の散弾銃を構えた舞が飛び出して、もう一発放つのとニーソが飛びかかり、ハサミで彼女の首を抑えるのは

同時だった。


「ワリいな。お嬢さん。ウチのワン子を返してもらうぜ?」


「流石、ザリガニ頭の怪人さん、動き早いね!」


軽快な彼女の台詞が終わらない内に、全身を電気が走る。しかし、強化された全身には効かない。そのまま一気に首を締め上げる。


「ぐふっ…殺すの?」


「ああ、必要とあればそうする。昔から言うだろ?異なる存在が交わっちまったら、どっちかが黙るまで殲滅を繰り返す。共存は無理だ。」


苦悶に喘ぐ彼女に冷徹に告げた。仮に彼女を助ければ、自分達の存在が世に知られる確率が

高くなる。仲間を思うなら、ここで彼女を始末した方が良い。


「悪いな…」


「駄目だよ!ニーソ!!」


手向けの言葉が遮られた。見れば玄関に、軍曹に抱えられた白狼がいる。

(間に合ったか…)


何だか裸だが、命に別状はなさそうだ。自然とハサミに込める力が緩くなっていく。


「舞さんは僕の友達だよ。殺しちゃ絶対に駄目だ。頼むよ。」


「オイオイ、コイツはお前をいたぶって殺す気満々だぞ?更に言えば、生かしておけば、

絶対、俺達の害になる。」


「それじゃぁ、何も変わらないよ。良い方法絶対あるよ。皆で考えれば絶対に大丈夫だから…」


泣きそうな顔の白狼を見て、ニーソは舞の首からハサミをどかす。全く、散々、ヒドイ事

されたってのに、随分と甘ちゃんだ。しかし、その甘ちゃんの話を聞いちまってる自分も

もっと、甘々か…仲間ってのも苦労するぜ。


軍曹の手を離れた白狼がニーソのハサミをそっと抱き寄せ、“その顔ホントにズルい”っていう感じの上目遣いでこちらを見る。


「お願い…」


「わかったよ…」


完全に戦意を削がれたニーソはただ頷くだけだった…



 「わぁああ~ん、ニーソォォ!!」


昨日の事件を気にする事もなく、学校に登校した白狼が

“そんなに叫んだらご近所に色々バレるだろうがっ!?”って感じで、隠れ家に

飛び込んできた。こちらの返事も聞かずに膝に登った彼は一気にまくし立てる。


「あのねっ!舞さん!あのねっ!学校行ったら、昼休みと放課後、屋上と空き教室で

僕の身体に‥‥“大丈夫!電気は使わないから!”って(♡)みたいな感じでヒドイ事をぉぉぉ!


これどーゆう事ぉぉぉ!後そんでね!この後も自宅にお招きされてるんだけどぉぉぉ!」


「あー、大丈夫、大丈夫、死なない程度に可愛がるって言う事で話はついてるから。」


「えっ?…」


白狼の震えが膝から伝わってくる。モフモフ尻尾の微妙な振動に若干心地よさを感じながら、言い含めるように肩にハサミを乗せ、説明していく。


「彼女との取り決めだ。俺達の事をバラさない代わりに週いくつかの割合で

ハクを貸し出す。それでお互いの生存の安定を図るって訳だ。」


白狼が目を見開く。色々事態を察してきたようだ。ご自慢の耳もピンと立っている。


「お前も言ったよな?“良い方法絶対ある!”って。後はハクの我慢次第だ。大丈夫!

最初は嫌でも、途中からきっと気持ち良くなるから!!!てか、なるように努力しよう!

なっ!?」


「わぁああ~ん!嫌だぁあああ!!」


最高の笑顔を決め、ハサミを上げるニーソとその膝上で震える、

どうにかしたいけど、どうにもならない白狼の鳴き声が虚しく廃墟に響いた…(終)



 

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