第188話 先導者
「で、何が聞きたいって? 本当手短に頼むよ、まじで」
「わかってますよ、俺も急がないといけないんで」
リンデさんが何かを知っていることは間違いない。
どこまで知っているのか……。
「リンデさんはあの模様が何か知ってるんですか?」
「あの模様ねえ……俺は詳しくは知らないな。ただ、似た模様なら俺はかつて見た事があるんだ」
リンデさんも見た事がある……?
「どこでですか?」
「……仕事柄ね、俺は国中を回ってるんだ」
「ショーですか?」
「その通り!! 大人気御礼の超絶凄いショーさ! ……でだ、あれは確かリンドガル付近の山岳地帯を馬車で走っていた時のことだ」
「リンドガル……魔神との闘いにもっとも近かった街……」
リンデさんは頷く。
「間は割愛するが、その時は豪雨でね。山越えが厳しく近くの洞窟に避難していたんだ。そこはどうやら太古の遺跡だったようでね。奥の方はまるで祭壇のようになっていたよ」
「祭壇?」
「あぁ。じめっとしてるし薄暗いしで気味が悪い場所だったね、今思い出しても寒気がする!」
そう言ってリンデさんは両腕を抑えぶるぶると震える。
「――でだ、そこで見たんだよ、あの模様を」
「え……?」
「正面にでかでかとね。五芒星に瞳……気味が悪くて俺はさっさと入口の方まで戻ったが、あの模様は忘れないね」
「魔神との闘いがあった場所の近く…………」
「あれは確実に魔神関連の模様だったね。なんせ、その時拾った古書があるんだが、その中は魔神の話でびっちりだ! それを俺は売って金にしようとしたんだが、びっくりしたことに魔術会がでしゃばってきやがった。しかも、ゾディアックの連中を連れてな!! あの時は終わったと思ったよ」
そしてリンデさんは俺に近づき、小声で囁く。
「だから、あの模様は魔神関連で確定だ。まさかここでまた見るとは思わなかったがね。きっと歴史的に見ても魔神を示す記号か何かなんだろう。あれがある場所には魔神の書が眠ってるとかね」
魔神関連……。
――とその時、俺の眠っていた千年前の記憶が蘇ってくる。
そうだ……そうだそうだ!! 思い出した!!
「あの模様……魔神を信仰する非魔術師達のシンボルだ……」
「何?」
「何で忘れてたんだ俺は……そうだよ、あれは魔神信仰の証じゃねえか……!」
「魔神信仰!? 魔神関連のただのシンボルじゃないのか?」
俺は頷く。
「だとするともしかして今回の騒動を起こしたのはアビスの連中じゃない……?」
アビスが絡んでる事件かと思っていたが、これはどうやら違うかもしれない。
カリストで奴と遭遇した時。
奴は魔神信仰を復活させると言っていた。
ということは、これは新たに魔神を信仰し始めた非魔術師達による単独での作戦……。
まだアビスが絡んでないとは言い切れないが、それだと余りにも被害が少なすぎる。
魔術師に対抗できない故の陽動作戦だとすれば、納得がいく。
――ということは、この騒動を先導している奴の目的は一体……。
この学校の禁書はすでにアビスの手に落ちている。
だとしたら狙いはなんだ……?
と、考え込んでいると、リンデさんが不意に俺の両肩を掴む。
「本当に魔神信仰の模様なのか!? まちがいないのか!?」
「な、なんですか、あなたもそんな感じの解釈してたじゃないですか……! 多分そうですよ、というかほぼ確実にそう!」
すると、リンデさんは青ざめた顔で二、三歩後ろに下がり、顔を覆う。
「あぁ……くそ、何だって言うんだまったく……!」
「ど、どうしたんですかリンデさん……? なにかそれが真実だとまずいんですか?」
「ああそうだよ……俺はもうちょっとだけマイルドな代物だと思ってたが、魔神信仰となれば話は別じゃないか!! さすがにカリストでの騒ぎは俺も知っている。"アビス"だったか? あの犯罪者集団の下部組織みたいなもんだろ!?」
下部組織……まあ見方によっちゃそう言えるか。
今の奴らがどういう理由で魔神を信仰するという考えに至るかわからんが、そこには間接的にアビスの考えが含まれているはずだ。
非魔術師が魔術師栄光の時代への回帰なんて考える訳がない。何かあるはずだ。
「それがどうかしたんですか?」
「どうもこうもないさ!! 俺がここへ来た理由は明確!! あのバカ野郎を追ってきたんだ!」
「あのバカ野郎?」
「おれは見てしまったんだよ……奴の首に模様があるのを……」
そう言って、リンデさんは首の後ろ側をトントンと叩く。
「ちょ、話が見えないんですけど……どういうことですか?」
「いいか? 俺がここまで来たのはあのバカ野郎……オースティンを探してたんだ! あいつは今わんさか騒ぎ起こしてる奴らと同じ模様を付けていた!! 控室でチラッと見えちまったんだよ! 今度は魔神の名前を使ってしょうもない自作自演を演じようとしてんだろうなと思って探し回ってたんだよ! だからお前もそれに加担してるのかと思って攻撃的になったわけなんだが……」
自作自演……なんのことかわからないが、オースティン・メイアンにはその前科があるようだ。
「オースティン・メイアンの首にも模様があったと?」
「ああ、その通り!! くそ……いつもの自作自演で魔神関連で何か可愛い英雄譚を作ろうってんならまだましだったが……よりによって魔神信仰だ!? おいおい、何が起こってんだよ!? 自作自演じゃねえってのか!?」
リンデさんは混乱した様子で額に汗をかき、うろうろとその辺りを回りだす。
ということは、リンデさんが言ってることが正しいならこの騒動を先導しているのはまさか……。
「オースティン・メイアンが先導者……!?」
「その可能性は大いにある!! あぁ、くそ、魔神信仰なんかと関わりあるとは思ってなかったけどな!! だが、あいつならやりかねん!!」
その時、学校長と口論して学校内へと入っていったオースティンのことを思い出す。
「学校長があぶねえかも……!」
「爺さんが……!? おいおいおい、過去を清算しにでもきたのかあのバカ野郎は!!」
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