第186話 奇抜で奇妙で
人ごみを掻き分けながら、派手なローブを羽織り、奇抜なシルクハットを被った男――奇怪なマジシャンの影を追う。
確かあのときこの辺りに居たはず……。
ここで、リンデはどこか慌てた様子で人ごみへと消えて行った。
「ここか……」
ここから校舎の方へと消えて行った。
一体何があった……?
ショーは全て終わり、本来なら帰ってもいい(リンデならパレードなど見ずに帰りそうだ)はずだが、何かを探していたのか……?
この騒動を予期、あるいは察知していたとしたら、最重要参考人だ。
それに、リンデの腕の包帯……しきりに気にしていたようだが、あの下に何があるのか……。
一番考えられるのは、やっぱ五芒星……だよな。
申し訳ないが、リンデなら非魔術師を率いて何かをしてもおかしくないという偏見が俺の頭にある。
――だが、一方でどこか憎めない雰囲気を纏っているのも事実だ。
彼がこの学校祭に乗じて何かを画策しているのだとは、信じたくない。
俺は頭を振る。
どのみち、会って直接確かめてみるしかない。
とりあえず校舎の方に向かって走り出す。
しかし、辺りは一般客ばかり。
ところどころで小さな騒ぎ起こっているが、他のクラスの見回りや、騎士達が対応している。
「くそ、どこに居るんだ……!」
小さな騒動は騎士や先生、グリムやレンたちが抑えてくれる。
今のうちに俺が真相を見極めねえと……何が起こるか分からねえが、このやり口、やはり"アビス"を思わせる。
放っておけないと、俺の心が叫んでいた。
◇ ◇ ◇
上手くリンデが見つけられないまま、魔術体験のコーナーへと戻ってくる。
「ユフィ!」
俺の声に、ユフィが振り返る。
「ギル……! どうしたの、さっきまでベルちゃんたちが居たけど……」
「無事だったか!?」
俺はぎゅっとユフィの両腕を掴む。
急な接触に、ユフィの身体が一瞬縮こまる。
「だ、大丈夫だよ……あはは。ドロシーちゃんとかも居るし」
すると、奥からムスッとした表情でドロシーが現れる。
「そうよ、私が居るんだから大丈夫よ。いいから離れないさい!」
そう言って、ドロシーはぐいっと俺とユフィを引き離す。
「それより、ベルたちは?」
「見回りに戻ったわよ。人手が足りないって言ってね。ここは私がいるし、ムカつくけどロキもいる……で、何しに戻ってきたのよ?」
「いや、無事ならいいんだが……」
そうか、ベルたちは見回りに戻ったか。
確かに客足もこの辺りはまばらだし、騎士もいない。五芒星の奴らもこの辺りで騒ぎを起こすのは効率的じゃないと踏んだか。
「そうだ、リンデ・アーロイを見なかったか?」
「リンデ……?」
ユフィが不思議な顔をする。
「リンデ・アーロイよ、あんたも知らないの? 田舎出身って本当知らないことだらけね……ある意味羨ましいわ」
「相変わらずの攻撃性だな……で、ユフィ。リンデってのは派手なローブ来てシルクハットをかぶったおっさんなんだが……」
すると、ユフィはうーんと額に指を当て、唸り声を上げる。
「私は見てないわね」
すると、しばらくして、ユフィが手をパチンと叩く。
「あっ! 見たかも」
「まじか!? どこで見た?」
ユフィは自信なさげに校舎の方を指す。
「確かそんな感じの人が噴水広場の方からフラッと来て、……この辺りを軽く見た後校舎裏の方に歩いて行ったような……」
「本当か!?」
「うーんどうかしら。私はこっちで作業してたから見てないけど……」
と、ドロシー。
「多分! 結構派手だったから見間違いではないはず。同じような人が他にもいたらお手上げだけど……」
「いやいや! 助かるぜ! サンキュー、ユフィ!」
俺はそう言って踵を返し、走り出す。
「ギル! 気を付けてね!!」
ユフィは力いっぱい俺に向かって手を振る。
「なっ……! な、何かあったら戻ってくるのよ!」
次いで、ドロシーも声を上げる。
「心配すんな! 今少し厄介な状況だからお前らも注意してくれ!」
俺はそう言い残すと、校舎裏を目指して走りだす。
裏にあるのは模擬試合のリングくらい……昼間の騒ぎで模擬試合は休止状態だから誰もいないはず。
俺は更に人ごみを押し分けながら、前へと進む。
人が徐々に斑になり、閑散としてくる。
さっきまで至る所で騎士や見回りの生徒と言い合いをしていた五芒星の連中は、こっちの方にはいないようだ。
そもそも、こちら側に居た連中は皆パレード目当てに移動しているのか。
確実に人が居るところで暴れているようだ……徹底しているな。
だが、あれが魔獣や魔術師じゃなかったのは不幸中の幸いだろう。
もしそうだったのなら、一般人も巻き込んで相当な被害になっていたに違いない。
そうこうしているうちに、校舎裏へとたどり着く。
人気はなく、殆ど日の落ちた校舎裏は暗い影を落としている。
地面に落ちた枝を踏み、パキっと音が響く。
「だ、誰だ!?」
暗闇の中から、驚いてひっくり返った声が聞こえる。
その声の主は、ズザズザと布をするような音を立てながら、俺から距離を取る。
「待った待った! 俺です! ギルフォード!」
「ギル……フォード?」
疑うような声色で、俺の名前を口にする。
落ち着け、もしかするとこいつが五芒星の親玉かもしれない。
油断するな。
俺はいつでも魔術を発動できるように構えながら、ゆっくりと声の主の方へと近づく。
「――"ブライト"」
俺が手を左から右へスライドさせた瞬間、目の前に光球が浮かび、暗かった校舎裏をほんのり照らす。
光りに照らされ、その奇抜な恰好の男は眩しそうに目を手で覆い、逃げ腰で後ずさる。
「ま、眩しいな!! いきなりなんだ、君は!!」
その姿、そしてその憎たらしい口調は間違えもしない。
やっと見つけた。
「やっぱり……リンデ・アーロイ。話を聞かせて貰いますよ」
「君は……私の厄介ファン!」
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